新宿スワン
これは、和久井健の同題コミックスを園子温監督が映画化したもの。
金もなく、将来もなく、やりたい事も見つからない青年、白鳥龍彦はふらりと訪れた歌舞伎町で、些細なトラブルから若者らを相手に喧嘩する。
腕っ節の強い龍彦だが、多勢に無勢でタコ殴りにされている所を、真虎と言う男に救われる。
男は、風俗業のスカウトマンで、達彦も真虎に憧れ、スカウトマンとして働き始めるのだが……
この映画、なるほど確かに面白い。
原作コミックスは、舞台を変えながら現在も続刊されている人気作で、これだけのキャストを揃え、大規模な歌舞伎町のセットを組むと共に、あの四六時中混雑している歌舞伎町でのロケまで行う（実際、人だかりが凄くて大変な事になったらしい）、と言う力の入れっぷりで、まぁ、これだけ材料が揃えば面白くならない訳がない、と言う感じ。
また、この映画、主要キャストの面構えが何ともいい。
二枚目俳優のイメージを捨て、見た目も中身も偏差値を下げて来た綾野剛は勿論、嬉々として悪役を演じている山田孝之、ヤク中の風俗嬢として年寄り老け込んだやつれた顔を見せる沢尻エリカなど、原作イメージを上手く再現しつつ、そこに命を吹き込んでいます。
特筆すべきは、真虎を演じた伊勢谷友介で、穏やかさと無邪気さ、そして意外な程にクールで残酷な真虎と言う人物を見事に体現しています。
（話は飛ぶけど、伊勢谷友介に織田信長を演じさせ、その生涯を描き切ってくれないものだろうか……もう最高にハマると思うのですが）
ただ、物足りなかったのは、これが園子温の映画だ、と言うこと。
これが三池崇史監督映画なら、恐らく文句のない出来映え、と言えるのですが、何しろ、これは園子温監督映画なのです。
園子温らしさが映画から匂わないのは残念ですし、らしくない描写も目立ちます。
特に、気になったのは真野恵里菜演じる栄子のエピソード。いかにも健康的な真野恵里菜はメンタルを病んでいるようには見えないし、栄子の自殺で落ち込む龍彦を、彼が今までスカウトした女性達が「幸せだよ」と声をかけるシーンの薄ら寒さ。
原作の、達彦は、彼女らを利用して稼いでいるのは自覚しており、その中で出来る限りの事をするだけだと言うのに対し、それを「幸せにしている」と言い切ってしまう描写にはどうしても受け入れられませんでした。
いっその事、彼女らの姿は全て達彦の頭の中だけの幻影で、その幻影を救いに、女たちを風俗業に沈めている……くらいまで突き抜ければ園子温らしい、と思うのですが、らしくない描写にはがっかりでした。
確かに、園子温監督、最近、映画を連発しており、その中では、こうした明かにシリーズ化狙いの商業的な狙いの作品をルーチンワークで作らなければならない、と言う事なのかも知れませんが……そうした事情が見えてしまうのも如何なものかと思います。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
■出演
白鳥龍彦 ・・・ 綾野剛
南秀吉 ・・・ 山田孝之
アゲハ ・・・ 沢尻エリカ
真虎 ・・・ 伊勢谷友介
（その他のキャスト）
金子ノブアキ 深水元基 村上淳 久保田悠来 真野恵里菜 一ノ瀬ワタル
丸高愛美 長田成哉 安田顕 山田優 豊原功補 吉田鋼太郎
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女をアゲて、男をアゲろ
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