ゼロの未来
これは、奇才、テリー・ギリアム監督の新作。
高度なコンピューター技術に支配された近未来を舞台に描く不条理劇です。
コーエン・レスはマンコム社に雇われている人間嫌いの孤独な男。ベテランプログラマーとして会社上層部の評価も高いコーエンだが、彼は、この仕事に苛立ちを感じていた。コーエンは“人生の意味を教えてくれる”筈のある電話がかかってくるのを待ち続けているのだった。出勤してしまっては自宅にかかってくる筈の電話を受ける事が出来ない。
ある日、コーエンは不本意ながら出席したパーティーで、会社の管理者“マネジメント”から「ゼロの定理」を解明するプロジェクトを任され、漸く自宅での作業を許されるのだが……
ジョージ・オーウェルの「１９８４」など、国家権力の監視による市民支配体制を描くディストピアＳＦは数多くありますが、この映画が描く支配者は国家ではなく、巨大企業と、彼らが用いるコンピューター技術そのものです。
「ゼロの定理」の解析に行き詰ったコーエンは、娼婦と呼ばれる女性、ベインズリーに誘われるままに彼女のサイトで痴戯に耽りますが、それもまた監視されており、ひょっとしたら彼女もまた企業が送り込んだのかもしれないのです。
これは、現代社会において様々な情報ツールにより個人のプライバシーが情報企業に収集されていると言う状況の行き着く先にあるものと言え、なかなか現代的な設定と思いました。
テリー・ギリアムならではの奇抜なビジュアルは相変わらずで、特に冒頭からマンコム社内にかけてのインパクトは強烈。
コーエンの自宅内に舞台が固定される中盤はやや中弛みするのですが、少年“ボブ”の登場から俄然、面白くなって行きます。
そして終盤、コーエンは全てが「０」になる“現実”から逃避し、コンピューターが生み出す“幻影”を選びます――それが何を示しているのか、そして、ベインズリーに導かれ理想郷と思えたその“幻影”には最早コーエンひとり、と言うエンディングは、現代に対する痛烈な皮肉と思いました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
テリー・ギリアム
■出演
コーエン・レス ・・・ クリストフ・ヴァルツ
ベインズリー ・・・ メラニー・ティエリー
ボブ ・・・ ルーカス・ヘッジズ
（その他のキャスト）
グウェンドリン・クリスティ ルパート・フレンド レイ・クーパー リリー・コール デヴィッド・シューリス
サンジーヴ・バスカー ピーター・ストーメア ベン・ウィショウ マット・デイモン マルガリータ・ドイル
ティルダ・スウィントン
■コピー
本当の幸せは、限りなくシンプルなものである。
■Ｌｉｎｋ
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