海にかかる霧
これは、２００１年に起きた「テチャン号事件」を元にした舞台劇「海霧」を映画化したもの。
製作・脚本は「殺人の追憶」や「スノーピアサー」のポン・ジュノで、「殺人の追憶」で脚本を担当したシム・ソンボが監督デビューを飾っています。
１９９８年、麗水。
漁船「チョンジン号」でアンコウ漁を続けていた船長のカン・チョルジュだが、不況と不漁が続き、船の修繕費用も工面出来ずにいた。 仲間の漁師は漁業補償を貰って廃船して転業して行き、働きに出るようになった女房は堂々と浮気に走り、居場所をなくしたカンの最後の拠り所は「チョンジン号」だけだった。
漁で稼げなければ危ない橋を渡るしかない。カンは、中国からの朝鮮族の密航を請け負うことにし、６人の船員たちと共に出港する。
密航は、人目に付かないよう荒天下を狙って行われる。荒れた海で密航者を移乗させる際、海に落ちた若い女、ホンメを新人船員のドンシクが救出した。ドンシクはホンメに好意を持ち、ホンメも彼を頼りにするようになる。
だが翌日、密航者たちを隠した船倉でガス漏れが起き、密航者たちが窒息死する事故が起きる。カンは証拠隠滅のため、死体を海に捨てるよう指示するが、ドンシクの厚意で機関室に潜んでいたホンメだけが生き残っていて……
「テチャン号事件」では、密航者を隠した２つの船倉のうちのひとつで事故が起きて約半数の密航者が死亡した、と言う事だそうですから、密航者が死亡してからの展開が、この物語の創作部分でしょう。
追い詰められた人間たちが濃霧に包まれ身動きのとれない洋上の船と言う“密室”に閉じ込められ、それぞれのエゴを剥き出しにして行く、濃厚でスリリングな展開はいかにも舞台劇らしく、また韓国映画らしいもの。
高圧的な独裁者として振る舞うカン船長以下、盲信、狂気、独占欲、肉欲……と人間の弱さと醜さを見せつける展開の中、主人公・ドンシクだけが「愛」を貫くと言うのが、この映画の特色であり、弱みでもあろうと思います。
それがドンシクを演じた韓流アイドル、パク・ユチョンの為でもあったでしょうし、そうした商業上の都合を受け入れざると得なかったのが、この映画の限界でしょうか。
（ポン・ジュノが監督ならばアイドルイメージをぶっ壊すような演技を強行したかも知れませんが、なにせ新人監督ですからね……）
また、これをアイドル演じる極限状況でのラブストーリーとするなら、ホンメを演じるハン・イェリのルックスはちょっと微妙ではないでしょうか。
カン船長役のキム・ユンソクは、「哀しき獣」のミョン社長を思わせるような怪物っぷりを見せていますが、いささかその怪演に頼った感あり。ここは物語上も、ベテラン船長のカリスマ性が怪物に変容していく様を見せて欲しかった所です。また、最期はちょっと呆気なかったかな……
エピローグは微妙な余韻を残すもの。
生き残った２人を映す海岸のシーンで終わりにしてもよかったように思うのですが、ホンメがドンシクの純情を利用したようにも見える、この映画結末にするのなら、ホンメの本心を垣間見せるような伏線が欲しかった所です。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
シム・ソンボ
■出演
カン・チョルジュ ・・・ キム・ユンソク
ドンシク ・・・ パク・ユチョン
ホンメ ・・・ ハン・イェリ
（その他のキャスト）
ムン・ソングン イ・ヒジュン キム・サンホ ユ・スンモク チョン・インギ ユン・ジェムン
■コピー
あの日、海の上で起こったことは、誰にも話してはならない
■Ｌｉｎｋ
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