| さよなら歌舞伎町 |
これは、新宿・歌舞伎町のラブホテルを舞台に、そこに集まる様々な人間模様を描く群像劇。
シンガーソングライター志望の沙耶とホテルマンの徹は、新宿のマンションで同棲中。恋愛当初の情熱も薄れ、長年連れ添った夫婦のような倦怠感が２人の間には漂っている。
沙耶は、共に活動して来た仲間と別れ、ひとりプロデビューするかどうか、決断を迷っていた。徹は、沙耶には湾岸の一流ホテルで働いていると嘘をついているのだが、歌舞伎町のラブホテルの雇われ店長と言うのが実態だ。
そのホテルで働く里美は、間もなく時効を迎える強盗犯の康夫を密かに匿っていて……
ラブホテルの店長と、その彼女のシンガーソングライター。韓国人デリヘル嬢と、その彼氏。家出少女とスケコマシ。逃亡中の強盗犯と、男をかくまう女。更に、店長の妹がＡＶ女優になっていてラブホにロケに訪れるとか、店長が追い払った立ちんぼが、隣のラブホで殺されるなどのエピソードを盛り込み、運命の交錯する１日を描いて行きます。
これはよく出来た群像劇で、言うなれば「グランドホテル形式」ならぬ「ラブホテル形式」となるでしょうか。
多くの人々が訪れるのだけど、その人生は交わらず、係わりを持とうともしない……そんなラブホテルならではの人間模様は、正に現代の縮図、と見る事も出来るかもしれません。
大ベテランの廣木隆一監督が、荒井晴彦と三度タッグを組んで作り上げたその物語は、そんな舞台の上で描かれるものとして、また、歌舞伎町を舞台とするものとして、意外なほどに優しいもの。
ラブホテルで「純愛」を拾ったスケコマシが足を洗おうとしてリンチを受ける展開など、下手したら殺されるのでは、と思ったものの、ちゃんとハッピーエンドに収まっており、登場人物の多くが、一夜明ければ幸せな朝を迎える辺りは、老境に達した監督ならではのものなのかしれません。
物語の主役と言うか、狂言回し役でもある徹を演じる染谷将太を除けば、キャストは出番が少ないのですが、そのせいもあって（？）結構な豪華キャストになっています。
その中では、手際よい客室清掃っぷり（特に両手両足を駆使した浴室清掃は見事）を見せる南果歩、意外にも大胆な濡れ場を演じた河井青葉など女性陣の奮闘が目立ちます。特に、地味顔に豊胸おっぱい、と言ういかにもな韓国デリヘル嬢を演じたイ・ウンウは見事。浴室での恋人との会話を長回しで捉えたシーンは、この映画屈指の見せ場でしょう。
ただ、物足りなかったのは、前田敦子。他の女性陣の脱ぎっぷりのよさと比べ、浮いている程に露出が少ないですし、終盤のギターの弾き語りは（感情が揺れている、と言う演出だとしても）シンガーソングライターと言う役にしては演奏が余りに拙すぎないでしょうか？
あと、これは２４時間の物語なのですが、南果歩演じる里美の逃走劇だけはプラスαがあります……ただ、ああやって二人乗りで自転車で走り回っていたら、そちらの方が警察に捕まりそうですけどね。
朝に始まった物語は、あまりにも多くの事が起き過ぎた一夜を過ぎ、平穏な朝を迎えます。
その一夜で、何か得、あるいはなくし、宙ぶらりんの状態から地に足を着けて一歩を歩み出す。
終わってみれば、これは青春映画であったのだな、と思いました。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
廣木隆一
■出演
高橋徹 ・・・ 染谷将太
飯島沙耶 ・・・ 前田敦子
高橋美優 ・・・ 樋井明日香
鈴木里美 ・・・ 南果歩
アン・チョンス ・・・ ロイ
イ・ヘナ ・・・ イ・ウンウ
（その他のキャスト）
我妻三輪子 忍成修吾 大森南朋 田口トモロヲ 村上淳
河井青葉 宮崎吐夢 松重豊,
■コピー
不器用で愛おしい人々へ
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