０．５ミリ
これは、“おしかけ介護ヘルパー”の女性と、老人たちとの触れ合いを描く、ちょっと変わったヒューマンドラマ。
主演は、安藤サクラ。この大長編の映画の正に屋台骨として映画を支えます。「１９６分、安藤サクラ大暴れ」と言う映画宣伝文句に嘘はありません。
監督は安藤サクラの実姉の安藤桃子。エグゼクティブプロデューサーは父親の奥田瑛二で、母の安藤和津もフードスタイリストとして参加、更に義父である柄本明も俳優として出演、と奥田家のファミリームービーのような映画です。
介護ヘルパーとして片岡家で働く山岸サワは、介護者の娘から異例の依頼を受ける。「父と一晩添い寝してほしい」……この願いを聞き入れたのが、サワの人生を変える事になる。
その夜に起きた事故により、彼女は介護士の資格を失って会社をクビになり、寮から追い出されてしまう。しかも、全財産をポケットに入れたコートをなくし、無一文で寒空に放り出されてしまったのだ。
行くあてもなく街を彷徨うサワは、カラオケ店をホテルと勘違いして店員を困らせている老人を見つけ、連れのふりをして共にカラオケルームへ。そこで一夜を明かしたサワは、翌朝、老人からコートと小遣いをもらって別れる。
彼女が次に出会ったのは、通りがかりに自転車を失敬したりタイヤをパンクさせたりする困った老人だった。サワは相手の弱みに付け込んで強引に家に上がり込み……
物語の導入でちょっともたつく感があります（ただ、これは伏線になっている）が、サワが寒空に放り出されてからは一気加勢。展開には多少無理を感じるところもありますが、安藤サクラ演じるサワのような、図々しい程の押しの強さで物語をぐいぐい進めます。
サワに“食いつかれる”老人たちは、最初のうちこそ迷惑そうにしているものの、サワの人柄と料理の腕前に心溶かされてしまいます。
実際、この映画の安藤サクラは非常に魅力的。眠そうなタレ目で、目の間が開いた所謂“ヒラメ顔”の決して美人とは言えない安藤サクラがこれほどまでに魅力的に見えるとは……天使のように奔放に、あるいは菩薩のような笑みを浮かべるその様には、「性格美人」と言う言葉を連想しました。「美人は３日で飽きる」などと言いますが、この映画のサワちゃんは「３日暮らせば離れられない」類いでしょう。年配の映画評者が「（自分の介護が必要になったら）サワちゃんが家に来てくれないもだろうか」と言うのにも納得です。
また、その安藤サクラに“食いつかれる”老人たちのキャストもなかなか。
カラオケ店の困った人を演じた井上竜夫と、“自転車泥”の坂田利夫の吉本新喜劇組で笑わせて場を盛り上げ、物語の中心は、津川雅彦が登場するエピソード。そして、最後に登場するのは柄本明です。
それぞれに特色のある物語を用意し、決して“串団子方式”の展開になっていないのもいいし、老人の元を去る際に、あらたなアイテムを得て行くのもロールプレイングゲームのようで面白いです。
気になったのは、津川雅彦の“演説”がいささか長過ぎる――勿論（ご本人の思想とは違うとは思うのですが）、この長回しを演じ切ったのは見事ではあるのですが――のと、「続く」と出そうなエンディングでしょうか。
サワちゃんのキャラは立っているので、この続きを連作ドラマにしても面白そうですが、１本の映画としてはやはりオチをつけて欲しかった所です。
（年 月日 にて）
（作品データ）
■監督
安藤桃子
■出演
山岸サワ ・・・ 安藤サクラ
（その他のキャスト）
柄本明 坂田利夫 草笛光子 津川雅彦 織本順吉 木内みどり
土屋希望 井上竜夫 東出昌大 ベンガル 角替和枝 浅田美代子
■コピー
死ぬまで生きよう、どうせだもん。
■Ｌｉｎｋ
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