泣く男
これは、「アジョシ」で、世界中のアクション映画ファンに一躍注目されることとなったイ・ジョンボム監督の新作。
韓国生まれアメリカ人殺し屋ゴン。これまで国際犯罪組織の下で淡々と仕事をこなしてきたゴンだったが、ある仕事で誤って少女を射殺してしまったことで彼は罪の意識に苛まれ、組織から逃げ出してしまう。
だが、組織は非情にも、彼に新たな仕事を押し付けて来た。次のターゲットは、なんとゴンが殺した少女の母親モギョンだ。ゴンにこの命令を阻む術はなく、韓国に戻ったゴンはモギョンの周囲を調べ始めるが……
この映画、大当たりした「アジョシ」の次作と言う事で、作品のスケールは大きくなり、見せるアクションも派手になりましたが、その内容は「アジョシ」と大きく変わらないものとなっています。
ただし、「熱血男児」、「アジョシ」、そして「泣く男」と、いずれも出会う筈のなかった者たちの出会いと相互理解の末に“男泣き”する物語を描いて来たイ・ジョンボム監督自身、そう言う物語が好きで、この映画は、その集大成として撮った、と言う趣旨のコメントをしていますから、似たような形式であるのも当然かも知れません。
それでも、観る側としては「アジョシ」以上のものを期待してしまうし、本作でも、違ったものを見せようとしています。
その工夫のひとつが、銃器を多用したアクション演出。
日本同様、銃器による犯罪や、警官の銃器使用が少ない韓国では、アクションシーンでの得物と言えば、韓国ヤクザ愛用の金属バットか、鉈や包丁と言う実用刃物類が主ですが、この映画では、ゴンも、敵役も銃器を主に用いています。殊に、中盤のアパートでの銃撃戦はなかなかのもの。キャラクターの個性に合わせて銃をチョイスする辺りの演出もいいし、軍用アサルトライフルの威力――クルマのドアなど容易に貫通してしまう――を知るからこそ、クルマを遮蔽物にする際にはホイールの影に隠れるようにするなどの描写にも唸らされます。
ただ、「アジョシ」から４年と言う十分な準備期間をおいているにも関わらず、映画としては物語が充分に練られていないように感じられました。
ゴンが少女殺しで精神的に参っているのに、その母親を殺せと命じる理由が判りませんし、ゴンがモギョンに自分の母親像を投影して殺せなくなり、やがて……と言う狙いは判るものの、そこに至るゴンの心理描写が上手く描かれていないのも気になります。（そうした狙いにするなら、ゴンが殺すのは少女ではなく、己と重なる少年の方が相応しかったのでは？）
「アジョシ」には、己を慕う少女を救うと言う明確な動機があって物語自体は明快だったのに、この映画は、その「動機」となる所が判然とせず、物語は最後まで迷走してしまっています。
最大の見せ場となる“男泣き”のシーンも有効とは思えず、派手なアクションも、そこに至る強い想いが感じられないのでは、その価値を活かし切れないでしょう。
勿論、今のままでも相当に見応えのあるアクション映画にはなっていますが、“「アジョシ」のイ・ジョンボム監督の新作”と言う期待からすると、いささか残念な仕上がりだったように思います。
（２０１４年 １０月２５日 横浜ブルク１３にて）
（作品データ）
■監督・脚本
イ・ジョンボム
■出演
ゴン ・・・ チャン・ドンゴン
チェ・モギョン ・・・ キム・ミニ
（その他のキャスト）
ブライアン・ティー キム・ヒウォン キム・ジュンソン カン・ジウ
■コピー
その殺しの報酬は、贖い。
■Ｌｉｎｋ
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