| ルパン三世 |
これは、モンキー・パンチ原作の劇画「ルパン三世」を、「あずみ」の北村龍平監督が実写映画化したもの。
シンガポールの美術館から１枚の貴重なメダルが盗まれた。
それは世界的な窃盗犯グループ「ザ・ワークス」の総裁トーマス・ドーソンが、次期総裁を指名するため仕掛けたレースだった。
その総裁指名パーティ会場で祝杯を上げるのは峰不二子。メダルを盗み出したのは、かの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫にあたるルパン三世だったのだが、メダルは結果として不二子の手中に収まったのだ。
だが、そのパーティの最中、ドーソンの屋敷は武装集団の襲撃を受けてドーソンは死亡。「ザ・ワークス」の仲間だったはずのマイケル・リーが、クレオパトラの首飾りであった秘宝・クリムゾンハートを奪って逃走した。
ルパンはクリムゾンハートを取り戻すため、「ザ・ワークス」のメンバーだった次元大介、峰不二子、ピエール、石川五右衛門らと組んでマイケルを追うのだが……
「ルパン三世」と言えば、今や原作の劇画より、２度ＴＶアニメシリーズと、数多くの単発ドラマと劇場映画が製作されたアニメ版の方が有名になってしまいました。
けれど、この実写版は、アニメを製作した日本テレビではなくＴＢＳが製作に当たったため、アニメ版の実写化ではなく、あくまで原作劇画の映画化である、としています。
ただ、ビジュアルの面では、どうしてもアニメ版の影響を強く感じてしまうのは仕方のない所でしょう。
また、印象的な大野雄二の音楽も日テレの承諾が得られずに使えなかったそうで、それもちょっと残念。音楽のアルド・シュラクはいかにもなスコアを用意しており、その出来は決して悪くないのですが……工夫なしに流しっぱなしで時に煩く感じてしまいました。
出演者は豪華と言える顔ぶれで、中でもルパン役の小栗旬は、ウェイトを絞って体型までも再現、入れ込みぶりは伝わって来ました。
（ただ、「不二子ちゃあ〜ん」はやり過ぎだったような……特にラストシーンのは）
峰不二子役にはどうか？と懸念した黒木メイサもなかなか。ドレス姿では意外な程の谷間を見せ、素肌にレザースーツと言う、お約束のシーンも再現しています。
ただ、次元が帽子を脱ぐシーンがあったのはいただけないし、いささかオールドタイプだけど筋の通った堅物警官の銭形が、タブレット型端末を使いこなし、ルパンに司法取引を持ちかける、と言う描写にも違和感を感じました。
あと、映画撮影の中心がタイだったこともあり、タイ人俳優を多数起用。中でも、「オンリー・ゴッド」で印象的だったウィッタヤー・パンスリンガムとラター・ポーガームの存在感がやはり目立ちました。
キャラは立っているし、俳優も悪くなく、予算も充分、と成功する材料は揃っているかに見えたこの映画、不安の声もあったものの個人的には期待していたのですが……その期待は、開始間もなく裏切られました。
この映画、演出と細部の詰めが甘く、その仕上がりはいささか残念なものとなっていたのです。
冒頭の美術館への侵入シーンから、テンポが悪くてぐだぐだ。アクション映画を得意とするはずの北村龍平監督とも思えない有様。
とにかく、無駄にカッコをつけるカットが多くてテンポを乱すと共にスピード感を欠き、リアリティの欠如が見る者を白けさせます。
ザック・シュナイダーを引き合いに出すまでもなく、最近は実写でもスローと止め絵によって「決め」のポーズで強い印象を与えると共にタメを作ってスピード感を強調すると言う日本アニメ風演出をハリウッドでも使っているのに、それをお家芸として然るべき日本映画で、まるで使いこなせていない惨状には呆れるばかり。これでは俳優の熱演も無駄になってしまうでしょう。
また、回想シーンや説明を全て台詞で済ませてしまうと言う工夫のなさや、クライマックスの舞台となる敵の要塞は地雷原に囲まれていたはずなのに、ラストシーンでは何時の間に地雷がなくなって地雷原をみんな普通に動き回ってるなど、辻褄の合わないシーンが随所に見られるのも気になりました。
先日、デジタルリマスター版が公開された「ルパン三世 カリオストロの城」など、脚本自体はこの映画といい勝負の出来にも関わらず、精緻な舞台設定と抜群の演出力によって、文句なしの傑作になり得ているのに対し、この体たらくはどうしたものか……
確かに、日本テレビをバックにつけての製作に出来ず、アニメ版の音楽や描写が使えないなどの制約、アジアに展開する為にアジア系外国人俳優を準主役で登場させなければならないと言う商売上の都合など、様々な問題があったのは想像出来ますが……そうした制約に投げやりになってしまっているのではないか？と思わせる出来映えには正直がっかりしました。
（２０１４年 ９月 ３日 横浜 ムービルにて）
（作品データ）
■監督
北村龍平
■出演
ルパン三世 ・・・ 小栗旬
次元大介 ・・・ 玉山鉄二
石川五ェ門 ・・・ 綾野剛
峰不二子 ・・・ 黒木メイサ
ピエール ・・・ キム・ジュン
マイケル・リー ・・・ ジェリー・イェン
トーマス・ドーソン ・・・ ニック・テイト
銭形幸一 ・・・ 浅野忠信
（その他のキャスト）
タナーヨング・ウォンタクーン 中山由香 吉野和剛 山口祥行 ラター・ポーガーム
ウィッタヤー・パンスリンガム ニルット・シリチャンヤー 葉山豪 山田優
モンキー・パンチ
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