これは、五十嵐大介の同題コミックスを橋本愛主演で実写映画化したもの。
　春夏秋冬、それぞれの季節ごとに１本の中編映画が製作される四部作で、今回は夏と秋の２作がまとめて上映されました。

　小森は山に囲まれた小さな集落。商店のある町役場付近まで自転車で３０分、大きなスーパーのある町に出るのは１日仕事と言う住まいで、いち子はひとり暮らしをしている。
　母は数年前に家を出、一度は都会に出たいち子は、町での暮らしに馴染めずに村に戻って来た。
　田を耕し、畑で農作物を作り、夏にはキャンプ場のアルバイト……自然と向き合い、自給自足の日々を送るいち子だったが……

　岩手の山村での暮らしを描いた本作の主演が橋本愛と知った時には、正直違和感がありました。
　高校卒業後、都会に出て一度は男と暮らしながらも戻って来た、と言う過去と、三浦貴大演じるユウ太の２年先輩と言う年齢設定は、２０代半ばになるでしょうし、また、彼女の持つ個性と、農村での素朴な暮らしと言うイメージが一致せず、もっと自然さが持ち味で、近年言われる“山ガール”のような（例えば蒼井優とか）女優の方がよいのでは、と思って見始めたのですが……お馴染みの切り揃えた前髪を上げた橋本愛、なかなか頑張って、この世界観に溶け込んでいました。

　雨の降る田んぼに這いつくばって雑草を取り、チェンソーで丸太を切り斧で割って薪を作り、薪ストーブでパンを焼く。
　これを実際に彼女がやるんです。例え演技だとしても、稼働するチェンソーを押さえ込むのも、しっかりと大地に踏ん張って斧を振るうのも、実際に彼女が形にしている訳で、この映画にリアリティを与える“アクション”を見事にこなしているのは立派なもの。
　夏から秋に移る季節の中、映画を彩るのは、様々な食事と、それを支える命の重さ。
　色づく稲穂、山に実る自然の恵み……熊を警戒しつつ栗を拾い、リスと競争して胡桃を拾い、胡桃ご飯のお握りを作って稲刈りへ出掛ける。
　キャンプ場の残りイワナは釣り上げて南蛮漬けにし、田んぼの草取りに活躍した合鴨を〆め、捌いて鴨のローストを作る。（これまた橋本愛、イワナの腹を割き、鴨を捌くのを己の手でやってみせます）
　「（それを食べる癖に）自分の手を汚さずに殺し方に文句つける奴の言うことなんか聞きたくない」と言う台詞が印象に残りました。

　まぁ、正直な話、やってる事は「鉄腕ＤＡＳＨ」と大差なく、農村暮らしの比較的綺麗な所を掬い上げたオーガニック嗜好の女性向けの映像エッセーだとの辛辣な見方も出来ましょうし、これを映画として観るなら、そのストーリー性は極めて希薄。
　それでも、農村で自然体で頑張る橋本愛の健闘ぶりもあり、ナレーションをも彼女自身で行う一人称の物語は、橋本愛の“アイドル映画”として、それはそれで満足度の高いもの。
　出て来る料理は素朴だけれども美味しそうで、視覚の満足度はかなり高いものがありました。
　変にお涙頂戴のドラマを作り込むよりもしっかりと心に染みる、これは充実の映画で、来年公開の冬編・春編も楽しみです。

　（年　月日　にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

森淳一　

　■出演

　いち子　・・・　橋本愛

（その他のキャスト）
　三浦貴大　　松岡茉優　　温水洋一　　桐島かれん

　■コピー

生きる　食べる　作る　　

　■Ｌｉｎｋ

http://littleforest-movie.jp/　

［戻る］