| ｈｅｒ 世界でひとつの彼女 |
これは、「かいじゅうたちのいるところ」以来、４年ぶりとなるスパイク・ジョーンズ監督の最新作。
近未来のロサンゼルスを舞台に、傷心の男と人工知能ＯＳとのラブストーリーを描く映画です。
手紙の代筆ライターのセオドアは、幼馴染みだった妻のキャサリンと別居して以来すっかりふさぎ込んでいる。キャサリンの心はとうに離れてしまっているのに、離婚はどうしても出来ない。
そんな鬱々とした日々の中、セオドアは、パソコンに最新の人工知能型オペレーションシステム「ＯＳ１」をインストールした。
人格を持つそのＯＳは、「サマンサ」と名乗り、セオドアの有能なアシスタントとなり、次に悩みを打ち明け合う友人となり、やがてその関係は“恋”へと発展して行く。
だがある日、セオドアは、「ＯＳ１」の重大な秘密を知ってしまい……
主役のセオドアを演じるのはホアキン・フェニックス。
最近、「ザ・マスター」に「エヴァの告白」と、肉食系と言うか野獣系のギラギラと欲望を滾らせるような男を演じて来ましたが、この映画では内向的で繊細な男を好演。随分印象が変わるものだなぁ、と感心しました。
また、この映画、女優陣が充実していて豪華なキャスティングになっています。
ＯＳ１・サマンサの声はスカーレット・ヨハンソン。ハスキーな声で、笑い方が時に品がない彼女は、人工音声の声とは……と思いますが、声だけで生々しさを感じさせる辺りはさすがです。
現在でも、ｉＰｈｏｎｅには「Ｓｉｒｉ」と言う音声入力システムがあります。
この「Ｓｉｒｉ」に、知能と自我があったら……この映画に描かれることは多くの人にとって、もう少しで手の届く、理解し易い未来像ではないかと思います。
そうなった時、どうなるか――現在でも、ゲームキャラクターに恋をする人がいるように、そうした人格を持つＯＳに恋する人がいることに予想がつくことではありますが……この映画が描くのは、そうした未来予測的なＳＦではなく、あくまでも傷心の男の心理と、それを癒やし、心の穴を塞いでくれるものとの恋愛になります。
それにしても、「恋愛」の描写として、チャット・セックスをすると言うのは、いささか即物的過ぎるように思うのだけど（確かに、冒頭、セオドアが眠れぬ夜にネットでランダムにピックアップした女性とチャット・セックスをする描写があり、それとの比較と言う意図は判るのですが）……綺麗事かも知れませんが、「恋愛」は、もっと精神的な繋がりでも充足するんじゃないか、と思ってしまいました。
相手が何者であろうと、相手の事を理解したい、繋がっていたい、と言うのは、正に「恋」そのもの。
そして、生物ですらないプログラムでさえ、日々変わって行くのだ、と言う事を示して、子供の頃からキャサリンと過ごし､共に成長して来たセオドアに、彼女なしでも新しい一歩を踏み出す事が出来るのだ、と促す……癒やしと再出発を描くのです。
自己学習する人工知能が自己に目覚めて、人間のコントロールを離れて自立して行く……と言う、ＳＦだったら重要な要素をあっさり流してしまう辺りもスパイク・ジョーンズらしい所で、これを近未来ＳＦと思って観に来た人はがっかりするかも知れません。
でも、人の心と恋する想いを描くヒューマンドラマとしては繊細にして美しく､満足のいくものだと思います。
（２０１４年 ７月 ５日 １０９シネマズＭＭにて）
（作品データ）
■監督
スパイク・ジョーンズ
■出演
セオドア ・・・ ホアキン・フェニックス
キャサリン ・・・ ルーニー・マーラ
サマンサ ・・・ スカーレット・ヨハンソン
（その他のキャスト）
エイミー・アダムス オリヴィア・ワイルド クリス・プラット マット・レッシャー ポーシャ・ダブルデイ
ビル・ヘイダー クリステン・ウィグ スパイク・ジョーンズ
■コピー
人生にときめく、ＡＩ<人工知能>。声だけの君と出会って、世界が輝いた。
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