ブルージャスミン
これは、日本でもコンスタントに新作が公開されるウディ・アレン監督の新作映画。
ウディ・アレンの映画と言えば、時として自虐ネタを含むシニカルな笑いと、辛辣な毒気が特徴でしたが、欧州を舞台とした最近の作品は、軽妙なラブコメが主で、毒気が抜けた感がありました。しかし、アメリカに戻って来たウディ・アレン、久々に毒気のある映画を作って来ました。
正直、７８歳にもなって、未だこれだけの怨念を抱えていたのか、とびっくりするような出来栄えになっています。
金融業を営む夫と共にニューヨークでリッチな生活を送っていたジャスミン。
ところが、その夫が金融詐欺で逮捕され、全てを失ったジャスミンは、精神のバランスを欠いて妹のジンジャーが暮らすサンフランシスコのアパートに転がり込む。
無一文どころか、多額の借金を抱えるジャスミンだが、サンフランシスコにやって来る時にも、シャネルのスーツに、ヴィトンのスーツケース、飛行機もファーストクラス、と、それまでの習慣を踏襲して、ジンジャーを呆れさせる。
ジャスミンを支えるために同居を認めたジンジャーだが、ジャスミンは地道に仕事をし、質素な暮らしをする事に耐えられず、再び玉の輿に乗ってセレブ生活に戻ろうとして……
映画としては、ふたつの時間軸が同時進行していく構成になっています。
主となるのは、サンフランシスコの妹の家で人生をやり直そうとするジャスミンが繰り広げる悲喜劇で、並行してジャスミンがニューヨーク時代に送っていたセレブ暮らしが崩壊して行く様を描いて行きます。
夫の嘘を告発したジャスミンが、己の嘘によって墓穴を掘る、と言う皮肉な展開は、いかにもウディ・アレンらしい辛辣なもので、その２つの“破滅”が最後にジャスミンを打ちのめす、その構成もまた見事なものです。
この映画で、ウディ・アレンその人が投影されているジャスミンの夫――詐欺紛いの悪辣な手腕で稼ぐ金融ブローカーで、家族思いだけど、女癖が悪い――ハルが、その女癖の悪さから、妻のジャスミンに密告されて失脚する……と言う展開は、養女のスン・イーに手を出して妻のミア・ファーローに告訴されたウディ・アレンその人を投影したものでしょう。（丁寧な事に「中国娘にまで手を出した」と言う台詞まであります）
映画では、その報いとしてジャスミンを徹底的に笑いものにし、最後に強烈な一撃を見舞うのですから、ウディ・アレンが抱く怨みの程が判ろうと言うものです。
ただ、ウディ・アレンの映画と言うのは作家色が強く、どんな映画でも“ウディ・アレンの映画”になってしまうものですが、この映画は、私的な怨念混じりの映画なのに、ウディ・アレンの映画らしさをあまり感じませんでした。
それは、ジャスミンを演じたケイト・ブランシェットの存在。彼女は、気迫のこもった演技で、この映画を“ウディ・アレンの映画”から“ケイト・ブランシェット主演映画”にしています。
この熱演は、ケイト・ブランシェットが、アカデミー賞・主演女優賞を始めとする本年度の映画賞を総ナメ、と言う髙い評価をされたのも当然、と思えるものでした。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
ウディ・アレン
■出演
ジャスミン ・・・ ケイト・ブランシェット
ジンジャー ・・・ サリー・ホーキンス
ハル ・・・ アレック・ボールドウィン
（その他のキャスト）
ルイス・C・Ｋ ボビー・カナヴェイル アンドリュー・ダイス・クレイ ピーター・サースガード
マイケル・スタールバーグ タミー・ブランチャード マックス・カセーラ アルデン・エーレンライク
■コピー
虚栄という名の花
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