フルートベール駅で
これは２００９年、サンフランシスコで起きた黒人青年射殺事件を映画化したもの。
昨年のサンダンス映画祭で、作品賞＆観客賞のダブル受賞となった話題作です。
２００８年１２月３１日の朝、オスカー・グラントはいつものように目を覚ました。
その日は彼の母親の誕生日。オスカーは４歳の娘を幼稚園に送り、以前の勤め先に出かけて店長に復職の交渉をする。家族を心配させまいと黙っていたが、彼は２週間前に仕事をクビになっていたのだ。
だが、復職は難しそうだ。ヤクの売人の仕事を再開することも考えたが、オスカーはそれを打ち消す。もう逮捕されるのはご免だ、娘のために、家族のために、自分はいい父親になるのだ。
母の誕生パーティが終わり、彼は新年を祝う為に仲間たちと街に繰り出すことになる。母は彼に、電車を使って街に出る方が安全だと言って……
日本で報じられる事はありませんでしたが、これはアメリカでは広く知られた事件で、その場に居合わせた人が撮影した動画がネットで公開された（その映像は映画冒頭で引用されています）事で、社会現象と言えるほどの大きな騒ぎとなりました。
オスカーに殺される程の落ち度がなかった事、そして、何より拘束されたオスカーを背後から撃った（銃社会のアメリカだからこそ、銃を撃つ際のモラルは厳しく問われます）と言う非道、そして、原因のトラブルを起こした当事者のうち、黒人だけが拘束され、それを白人の警官が撃ったと言う事実が騒動を大きくしたのです。
でも、映画は、誰もが知るそうした部分を描かず、事件の前日からオスカーの死までを淡々と描きます。
勿論、映画を観ている人は、オスカーが射殺されることを知っているのですが、そこに至るまでのオスカーの一日は、ごく平凡なもの。
それでも、死は突然に襲いかかるのです。
監督のライアン・クーグラーはこれが商業映画デビュー作。自身も黒人のクーグラー監督は、１９８６年生まれで、オスカー・グラントと同い歳。
事件当時、サンフランシスコ在住だった監督は、事件を知って、他人事ではないと感じたそうです。同じような状況で自分が射たれたかもしれないし、身近な誰かが殺されていたかもしれない・・・そうした想いが、この映画製作させたのでしょう。
「死」とは決してドラマチックなものではなく、何時、どのような形で訪れるのかも判りません。
これは、そうした“誰もが知っているけれど意識していないこと”を共有する映画なのです。
（２０１４年 ３月 横浜ブルク１３にて）
（作品データ）
■監督
ライアン・クーグラー
■出演
オスカー・グランド ・・・ マイケル・B・ジョーダン
（その他のキャスト）
メロニー・ディアス オクタヴィア・スペンサー ケヴィン・デュランド チャド・マイケル・マーレイ アナ・オライリー
■コピー
その日は母の誕生日。娘と遊び、家族と少しケンカをし、友人と笑いあった。
僕の人生、最後の日だった。
■Ｌｉｎｋ
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