| ワン チャンス |
イギリスのＴＶ番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」は、アマチュア対象の芸能コンテスト。
２００９年に、あのスーザン・ボイルを発掘したことで、日本でもよく知られるようになりましたが、それ以前に、この番組で“奇跡の歌声”を披露して優勝した男がいました。
その男の名はポール・ポッツ。携帯電話のセールスマンだった彼は、これをきっかけに世界的なオペラ歌手になります。
この映画は、ポール・ポッツが「ブリテンズ・ゴッド・タレント」に出場するまでの人生を描く伝記映画です。
歌う事が大好きなポールは、鉄鋼業が主産業で腕っ節が男の価値と言う街では浮いた存在だった。子供の頃から「女々しい」とイジメられ、そんなポールを父親も見て見ぬふり。
専門の音楽教育を受ける事も出来ず、地元の携帯電話ショップでバイト店員として働いていたポールだったが、それでも、初めて出来た恋人ジュルズの薦めもあって、地元の演芸大会で優勝。優勝賞金を使って、念願だったイタリアの音楽学校に通う事となった。
そこで才能の片鱗を見せたポールだが、憧れのオペラ歌手パバロッティから「君はオペラ歌手にはなれない」と宣告されてしまう。
失意のポールは、帰国して元の生活に戻り、ジュルズと結婚。
だが、その後も病気に事故と、ポールの生活には次々と不幸が重なるのだった・・・
冴えない男が、紆余曲折の末に隠されていた才能によって一躍、大成功を収める、と言うサクセスストーリーは幾ら何でも出来過ぎの感はありますが、これが事実なのですから仕方ありません。
勿論、映画としての脚色はありますし、２時間でポールの半生を描く必要上からエピソードが整理されている部分はあるにせよ、公開されているプロフィールを見ると、映画は概ね彼の人生をなぞっているようです。（しかも、彼を襲った不幸の連鎖はあれでも省略されているような・・・）
それが映画になってしまうのですから、正に「事実は現実より奇なり」と言うところ。
また、音楽映画としても見所は多く、映画中の歌曲は全てポール・ポッツ本人が吹き替えており、映画中では短く削られてはいるものの、もっと長く聴かせて欲しい、と思わせます。
そして、圧巻は「ブリテンズ・ゴット・タレント」の出演シーン。
実際の番組映像とコーデンによる出演シーンを巧みに編集して、世界中の人が見た、あの“奇跡の歌声”が世に出た場面を再現します。
審査員は呆気にとられ、あるいは感激して涙を流し、観客総立ちのスタンディングオーベーションとなったシーンは、正に感動必至。
また、ポールが成功を収めたのは、決してその才能だけではなく、ひたむきに彼を信じる妻の内助の功と、家族と仲間の支えがあっての事、と言う描写もいい。才能を花開かせる為には、育つ土もまた豊かでなければ・・・と言う良心的で上質のヒューマンドラマ。これは気持ちのいい映画でした。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
デヴィッド・フランケル
■出演
ポール・ポッツ ・・・ ジェイムズ・コーデン
ジュルズ ・・・ アレクサンドラ・ローチ
（その他のキャスト）
ジュリー・ウォルターズ コルム・ミーニイ マッケンジー・クルック ヴァレリア・ビレロ トリスタン・グラヴェル ジェミマ・ルーパー
アレックス・マックイーン ミリアム・ルシア スタンリー・タウンゼント サイモン・カウエル
■コピー
その歌声に、世界は息を飲んだ――。
■Ｌｉｎｋ
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