キャプテン・フィリップス
これは、「ボーン・アイデンティティ」のポール・グルーングラス監督が、２００９年にソマリア沖で発生した海賊襲撃・船長拉致事件を映画化したサスペンスです。
主演は、トム・ハンクス。
２００９年３月、マークス海運のコンテナ船アラバマ号に乗り込んだ船長リチャード・フィリップス。
ソマリアへの救難物資を積んで、モンバサ港に向けて出発した船は、アデン湾を出てソマリア沖を航行していた。
海賊事件の多発する海域のため、抜き打ちに海賊対応訓練を行っている最中、フィリップス船長は接近してくる２隻の小型ボートを発見。現実に海賊の襲撃に直面したフィリップスは・・・
「ボーン」シリーズなど、アクション・サスペンスに定評のあるポール・グリーングラス監督ですが、この映画は、船長や米海軍をヒーローとし、海賊を悪役に描いて物語を単純化した娯楽作に仕立てることは避け、実際の事件をリアリティ溢れる描写で描いています。
この話の元になったフィリップス船長夫妻の手記は、船長と、彼の妻の視点を交互に描くものだったそうですが、ポール・グリーングラス監督は、フィリップス船長が海に出てから以降は、妻側の描写を一切排除しています。それ故に、家族への情愛や、穏やかなシーンが殆どなく、色恋沙汰の描写は一切なし。冒頭から終末まで、殆ど緊張感を緩めることなく突っ走ります。
孤立無援の海の上で、知恵を絞って海賊の追撃を振り切る描写には手に汗握りますし、海賊に乗り込まれてからも、乗員を隠れさせ、海賊を分散させて逆襲を試みるなど、ベテラン船長ならではの駆け引きには真剣勝負の面白さがあります。
また、海賊側も単純な悪として描くのではなく、村のために、軍の将軍へ上納金を納める為に仕方なく漁民が海賊行為を働いている、と言う現実を見せると共に、海賊のリ−ダーのムセを粗暴なだけではなく、知力も高ければ計算も出来る男として描写しているのもいい。
このムセを演じたバーカット・アブディは、その骸骨のような痩せた異相が印象的ですが、実際にソマリア出身と言うこともあり、ムセと言うソマリア海賊と言う男の存在感に説得力を与え、名優、トム・ハンクスの向こうを張る、名演技を見せています。
実際にコンテナ船を使い、海軍の協力を得て作られた映像は迫力満点。中盤以降、狭い救命艇の内部の描写が主となった所で、ややドラマがもたつく感じもありますが・・・この辺りは、実録ドラマ故に仕方のない所、か。
それでも、終盤、ＳＥＡＬＳが乗り出して来る辺りで、もう１度サスペンスを盛り上げる手腕は手堅いもの。
実話に基づく話をリアルに描きながら、それでも下手なフィクションよりも断然面白くして立派にエンターテイメントにしてしまう辺り、さすがはアクションの名手、ポール・グリーングラス監督、と言う所でしょうか。
（２０１３年 １２月 １日 横浜・ムービルにて）
（作品データ）
■監督
ポール・グリーングラス
■出演
リチャード・フィリップス ・・・ トム・ハンクス
ムセ ・・・ バーカッド・アブディ
（その他のキャスト）
バーカッド・アブディラマン ファイサル・アメッド マハト・M・アリ マイケル・チャーナス
キャサリン・キーナー デヴィッド・ウォーショフスキー コーリイ・ジョンソン クリス・マルケイ
ユル・ヴァスケス マックス・マーティーニ
■コピー
「生きて還る――」 勇気だけが彼の希望となった。
■Ｌｉｎｋ
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