Ｄａｉａｎａ
ダイアナ
これは、１９９７年８月に、パリで交通事故死したダイアナ元英国皇太子妃の伝記映画。
監督はオリヴァー・ヒルシュビーゲル。
「ヒトラー 最後の１２日間」で、ヒトラーの最後の１２日間を映画にしたヒルシュビーゲル監督は、ダイアナの最後の２年を映画としました。
１９９５年、チャールズ皇太子と別居中のダイアナの元に、父親が心臓病で倒れた、との知らせが入る。
病院に駆けつけたダイアナは、そこでパキスタン生まれの心臓外科医ハスナット・カーンと出会う。
ハスナットの執刀により、父親は回復、医師としての高い技量に加え、その人柄に魅了されたダイアナはやがて恋に落ちて・・・
この映画で、ダイアナを演じるのはナオミ・ワッツ。
既に４０代半ばのナオミ・ワッツは、映画中のダイアナよりも１０歳は年上になりますが、これまでも役年齢が実年齢を下回る役を多くこなして来たナオミ・ワッツだけに不自然さはありません。
しゃべり方の癖や、上目遣いに相手を見上げる表情などもそっくりで、正にダイアナが憑依したのかのように見える、見事な役作りを見せています。
また、これまでも薄幸な役の多いナオミ・ワッツだけに、そうしたイメージが、この映画のダイアナには付きまといますが、それもまた狙いだったように思います。
映画は、ダイアナの最後の恋の相手が、ハスナット・カーンであった、と言う仮説に基づき、その「最後の恋」を劇的に描いて行きます。
ハスナット・カーンは実在の人物であり、一時、親密な関係にあったのも事実だとされていますが、これはなかなか大胆な脚色。ダイアナが事故死した際、共に事故死したエジプト人の大富豪ドディ・アルファイドも、アテ馬に過ぎなかったと言うのですから・・・
そうして描かれる、“ダイアナ最後の恋”は、これは何とも微笑ましいもの。
ハスナットに会いたいが為に、理由をつけては病院を訪れ、秘密のデートのためにカツラを調達。そして、宮廷スタッフに助けられながらも、ハスナットに手料理を振る舞おうとするダイアナの姿は、正に“恋する乙女”のもの。これを、この手の演技が得意なナオミ・ワッツが、可愛らしくも初々しく演じてしまうのです。
ただ、そんな物語、果たして観客が望むものだったのかどうか・・・
現実のダイアナが、恋多き女性だったのは知られていますし、自傷行為など起こしているのは、気が強くて能動的な性格であることの裏返し。
この映画が描いているような、初な乙女のような「純愛」だった、と言う描写に説得力はなく、しかも、舞台は権謀作術の渦巻く英国王室なのです。政治的に許されない恋もあろうし、そもそも、英国の王位継承者の母親が、イスラム教徒の元に嫁ぐなどと言うことなどあり得ません。
そうした部分を描かずに、綺麗事だけで話をまとめ、あたかも「ロミオとジュリエット」のような“許されない悲恋”を描いたこの映画の出来映えは物足りません。
確かに、関係者の多くが存命で、それらに配慮する必要もあったのでしょうが、だからこそ、決して綺麗事では済まされない、その「真実」を描いて欲しかったように思うのです。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
オリヴァー・ヒルシュビーゲル
■出演
ダイアナ ・・・ ナオミ・ワッツ
ハスナット・カーン ・・・ ナヴィーン・アンドリュース
（その他のキャスト）
ダグラス・ホッジ ジェラルディン・ジェイムズ チャールズ・エドワーズ キャス・アンヴァー
ジュリエット・スティーブンソン
■コピー
やっと会える。本当のあなたに――。
■Ｌｉｎｋ
［戻る］