オーガストウォーズ
これは、２００８年に起きた南オセチア紛争を舞台にしたロシア映画。
映画宣伝では、戦場で大暴れする巨大ロボットのビジュアルが前面に押し出され、一見、ＳＦ映画のようですが・・・これはれっきとした現代のドラマで、かなりシリアスな戦争映画です。
２００８年８月、若いシングルマザーのクセーニアは、エリート銀行マンとの恋に燃えていた。
幼い息子のチョーマを別れた夫に預けて、恋人と共に避暑地のソチへバカンスに出掛けようとしていたクセーニアは、ある知らせを受けて愕然とする。
別れた夫の故郷である南オセチアに、グルジア軍が侵攻の準備を進め、軍を集結させている、と言うのだ。
クセーニアは、無謀にも身体ひとつで息子を連れ戻す為に南オセチアに向かったのだが・・・
ロシア映画としては珍しいＶＦＸによるロボットアクションが目を引く映画ですが、こうしてロボットを活躍させる舞台作りの工夫がこの映画独自な部分。
これらのロボットは幼い息子、ロボット演劇（アニメじゃないのがさすがロシア）好きで空想癖のあるチョーマが、頭の中で描いた映像なのです。自分に降り掛かる事態を、チョーマは子供故に理解出来ない。それを、好きな演劇のキャラクターに脳内変換し、それをビジュアルで見せるのです。敵の戦車は悪の魔王のロボットに、火災の炎は魔王の配下の龍に、と言う具合。それに対抗する正義のロボットが、チョーマを守る父であり、母に投影されるのです。
これはなかなか面白い設定で、ヘタにＳＦ的な設定を練るよりもずっといい。
そのＶＦＸは、まだまだハリウッドや中国には及ばず、正義のロボットなど、ＣＧ臭い部分も目立つのですが、まるでトランスフォーマーのように戦車がロボットに変化していくビジュアルはなかなか見応えがありました。
また、ＶＦＸで満足出来ないのであれば、現物を使う、と言う明快な割り切りのもと、Ｔ−７２戦車を始め、ロシア軍の実物の装備類をどんどん使い、それらが映し出されるのも興味深い所です。
（あの狭っ苦しいＴ−７２の砲塔内にカメラを入れ、自動装填装置が動く様まで見せるのですから・・・）
また、これは２００８年に起きた新しい紛争を題材としているのであまり嘘もつけません。
戦闘シーンなどはリアルに作り込まれていますし、どんどん人が殺される。その苛烈さの描写は遠慮なしです。
そんな戦場で、力も経験もない、若い母親がどうして息子を救出したのか、それがこの映画の隠れた見所です。
それを可能としたのは、彼女の息子への愛の深さと、不屈の魂。
冒頭、恋に浮かれている様子は余り好感が持てなかったのですが、クセーニアは、どんな局面でも諦めず、遠慮なしに周りの人々に助けを求め、突き進んで行く人物なのです。
それに説得力を与えるのが「ロシアのおっかさんは強い」と言う共通認識でしょうね。
これがあるから、集結したグルジア軍のど真ん中を強行突破する（！）と言うシーンにも説得力が出ますし、敵の兵士に銃を向けられても「私は、息子を助けたいの。そのためなら何だってする。あなたのお母さんだってそうするでしょう？」で説き伏せてしまう。
「ロシアの母親の愛は無敵」と言う作り手の想い。下手に持ち出されればシラけてしまいますが、こうもストレートに出されると文句のつけようもないでしょう。
あと気になったのは、前夫に、恋人の銀行マン、そして新たに恋に落ちた軍の若い兵士・・・とクセーニアの恋多き女っぷりですが・・・それもまた、ロシアの母の逞しさ、と言う所でしょうか？
（月日 有楽町スバル座にて）
（作品データ）
■監督
ジャニック・フェイジエフ
■出演
クセーニア ・・・ スベトラーナ・イバーノブナ
（その他のキャスト）
エゴール・ベロエフ マクシム・マトベーエフ
■コピー
たとえ何が起きても、あなただけは私が守る。
■Ｌｉｎｋ
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