ペーパーボーイ
真夏の引力
これは、ピート・デクスターの同題小説を、ザック・エフロン主演で映画化したサスペンス・・・と言うか、ちょっとビターな青春映画です。
監督は「プレシャス」のリー・ダニエルズ。
この映画もまた、毒と救いのない現実を盛り込んだものになっています。
１９６９年、その年は暑い夏だった。
大学を中退したジャックは、実家の小さな新聞社で新聞配達の手伝いをしつつ、悶々とした日々を過ごしていた。
大学まで水泳一筋で来た硬派な体育会系のジャックにはガールフレンドもおらず、大学の友人たちとは中退以来疎遠になってしまった。
そんなある日、マイアミの大手新聞社で記者をしている兄のウォードが、地元で起きた殺人事件で逮捕された容疑者に冤罪疑惑がある、として、その調査の為に戻って来た。
兄の運転手兼助手として調査に協力する事になったジャックは、容疑者のヒラリーと文通の末に婚約したシャーロットに出会って心奪われてしまう・・・
「ハイスクール・ミュージカル」で、爽やかな主人公を演じていたザック・エフロンを主役にしたこの映画、ある殺人事件を巡るサスペンスとミステリーの色合いを持ってはいますが、その実、これは紛れもない青春映画でしょう。
大学からドロップアウトし、自宅に引き籠もって、幼い頃から面倒を見てくれていた黒人メイドのアニタだけを心許せる存在としていたジャックが、兄の調査の手伝いを通じて世間と言うものを知り、シャーロットに出会って初めて恋を知る。
このシャーロットを演じるのがニコール・キッドマン。
実年齢だって、ザック・エフロンとは２０歳違うし、恐らく役年齢もそのくらい。大きな年の差がありますが、ニコール・キッドマンは、正に腐る直前の果実のような爛熟した魅力を振りまき、その上で社会経験の豊富さと、包容力を見せるのですから、これは初な青年が参ってしまうのも頷けると言うもの。
しかし、その恋が決して実らない事を、若いジャックには判らなくともシャーロットには判っています。
そうして、事件の調査は進み、その中でジャックは、世間と言うものを学ぶものの、冤罪が認められてヒラリーは釈放、そして、シャーロットはヒラリーの元に行って一件落着・・・と、それで終われば、ホロ苦い青春の１ページ、と言う事になるのですが、現実とはそんなものではない、と言う事をこの映画は突きつけて来ます。
ウォードの隠された性癖、同僚の黒人記者・ヤードリーの抱える問題を描き、物語はあれよあれよと言う間に思わぬ方向に転がって行きます。
そして訪れる破滅・・・
べとつくような沼地の空気の中、死体を載せたボートを走らせるジャックは、もう、何者でもない初な若者ではありません。
「二度と恋は出来なかった」の言葉に、最初の恋で“ファム・ファタール（運命の女）”に出会ってしまった男の哀しさを滲ませる、味わいのあるラストシーンでした。
（２０１３年 ８月 ３日 新宿武蔵野館にて）
（作品データ）
■監督
リー・ダニエルズ
■出演
ジャック ・・・ ザック・エフロン
ウォード ・・・ マシュー・マコノヒー
シャーロット ・・・ ニコール・キッドマン
ヒラリー ・・・ ジョン・キューザック
ヤードリー ・・・ デビッド・オイェロウォ
アニタ ・・・ メイシー・グレイ
（その他のキャスト）
スコット・グレン ニーラ・ゴードン ネッド・ベラミー
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覗いてはいけない、禁断の闇
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