インポッシブル
これは、タイのリゾート地で、大津波に遭遇、九死に一生を得た家族の姿を描く映画です。
製作はスペインで、映画は、スペイン映画史上２位、スペイン映画歴代１位となる大ヒットとなったそうです。
東日本震災での津波は日本にとって甚大な被害をもたらしましたが、それを上回る被害を生み出した大津波がありました。
それが、２００４年１２月２６日に発生したスマトラ沖地震による大津波です。津波は、東南アジア各国沿岸部を襲い、３０万人にもなる死者・行方不明者を出しました。
この映画は、タイに滞在していたスペイン人一家が、その大津波に呑まれながらも奇跡的に全員生還した、と言うエピソードを描くもので、世界公開を意識して英語作品にすべく、主人公一家を日本在住のイギリス人に変更した他、映画的な脚色は殆ど施されていないと言います。
ただし、遺体が折り重なる凄惨な被災地での光景、見るに堪えない水死体の描写などは抑えられているそうですが・・・映画は、その場で起きている事全てを描ける訳ではなく、それはやむを得ないでしょう。
２００４年１２月。
クリスマス休暇を過ごすため、３人の息子と共にタイのリゾートホテルにやって来たヘンリーとマリアの夫婦は、突然の津波に呑み込まれてしまう。
押し寄せる波に木にしがみついて耐えていたマリアだが、長男のルーカスが流されて行くのに気づいて濁流に飛び込み、奇跡的に２人共危機を抜け出した。
だが、濁流の中でマリアは右足に重傷を負い、やがて動けなくなってしまう。
現地の人々に救い出され、病院に担ぎ込まれたものの、十分な治療も受けられずにマリアは瀕死の状況を彷徨うのだった。
一方、瓦礫の山と化したホテルでは、ヘンリーと下の２人の子供がいた。
ヘンリーは妻と長男を探し、ホテルの周囲を探し回るのだが・・・
この映画、撮影されたのは２０１０年ですから、東日本震災の津波の影響で企画された作品ではありません。
でも、（特に日本人としては）東日本震災の津波と関連づけて見てしまうのはやむを得ないでしょう。
そして、この映画にとって不幸だったのは、この映画が描く津波よりも、遙かに強大な津波を、現実の物として多くの人が見てしまっている、と言うこと。
スマトラ沖地震による津波の高さはせいぜい数ｍ。最大数十ｍの高さになり、ビルをもなぎ倒して全てを破壊し尽くした東日本震災の津波よりも映像の衝撃には欠けてしまっているのです。
確かに、この映画は恐怖と破壊がウリのディザスター・ムービーではないのですが・・・この映画の津波映像から、衝撃も、目新しさをも奪ってしまったのも確かだと思います。
それでも、この映画の描く津波の映像は凄い。
ＣＧに頼り切らないスペイン映画だけに、実写映像（勿論、記録映像ではない）を組み合わせているのですが、「一体、どうやって撮ったのだろう？」と思わせるようなカットが幾つもありました。
また、その濁流の中で、正に懸命の演技を見せるナオミ・ワッツも凄い。
津波の中の撮影だけでも１ヶ月に及び、ナオミ・ワッツはその間、連日水槽の中で過ごしたのだとか・・・この頑張りにはアカデミー賞ノミネートも納得です。
映画の中心は、津波の災厄と被害ではなく、その中で、生きるとは、家族とは何かを問いかけるヒューマンドラマ。
お涙頂戴の感動の物語になってしまいそうな話を、長男のルーカスの成長する姿を中心にした、ビルディングス・ロマンにした辺りも好印象です。
ただ、気になったのは、この映画、あくまでもヘンリーら一家と、その周りの西欧人たちが中心だ、と言うこと。
確かに、映画公開先を考えればそうなるのは判るのですが・・・ラストシーン、家族揃ってタイから去って行くシーンには物足りなさを覚えました。
旅行者であるヘンリーらは、旅先のタイで、どんな災厄に見舞われても家に帰ればそれまで通りの日常がある。恐らくは保険も効く（実際、保険会社がシンガポールの病院に運んでくれるのがラストの展開）ので、実質被害は少なく、家族の絆も深まってハッピー・エンド――でも、ヘンリー一家は非常に幸運な部類で、家族を亡くしていたらそうはいかないし、被災地は、日常そのものがなくなっている・・・良心的な作りの映画で、そうした部分を匂わせているだけに、何とも割り切れない想いが残りました。
それは、津波被害国となってしまった日本人だからこそ想う事なのかも知れませんが・・・
PS
この一家が暮らしているのは日本。
彼らは、この７年後にまた津波に直面する事になるのは・・・映画制作時には考えもしていなかったでしょうけれど、何と言う運命でしょうか。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
フアン・アントニオ・バヨナ
■出演
ヘンリー ・・・ ユアン・マクレガー
マリア ・・・ ナオミ・ワッツ
ルーカス ・・・ トム・ホランド
（その他のキャスト）
サミュエル・ジョスリン オークリー・ペンダーガスト ジェラルディン・チャップリン
■コピー
生きる希望は、奪えない。
■Ｌｉｎｋ
［戻る］