コズモポリス
ＣＯＳＭＯＰＯＬＩＳ
これは、ドン・デリーロの同題小説を、デビッド・クローネンバーグ監督が映画化したもの。
主演は、「トワイライト」シリーズのロバード・パティンソン。
エリック・パーカーは若くして大富豪となった。金融投資の読みの正確さから「予言者」と呼ばれ、今や、会社を設立し巨額の資金の運用をする日々だ。
彼は日常、巨大なリムジンで移動する。その車内で、市場動向を見、取引をし、打ち合わせをし、セックスをする。
リムジンの後部座席は彼の築いた王国の玉座であり、彼は王侯のようにリムジンを訪れる人々に謁見をするのだ。
だが、そんな彼の王国は破滅に瀕していた。
下落を見越して先物投資に出た人民元が、市場で上昇をしているのだ。
このままでは築き上げた巨万の富は消え、会社も破滅しようと言うと言うのに、エリックは、その事を現実のものとして感じられないでいた・・・
ふと、周囲の情景が現実味を失い、自分自身をも一歩引いた視点から見ているような状況を経験した事のある人は少なくないと思います。
この映画は、そうした現実喪失に囚われた男の話なのです。
男の前には、様々な人物が現れ、会話をして行くのですが、それがエリックの心を捉え、動かすことはありません。
一応、エリックも新妻に対しては執着を見せますが、それとて「セックスをしたい」と言う欲望からでしかないのです。
映画として面白いのは、この映画中盤までのリムジンの中で繰り広げられる数々のエピーソード。
一見、脈絡のないそれらエピソードが続く、この展開は、正に夢を見ているようなもの。勿論、夢と言っても悪夢の類いでしょうけれど、これぞ正にクローネンバーグの世界です。
また、クローネンバーグ映画の特徴であった、グロテスクなバイオメカや胎内回帰願望の描写は表面的には見られないものの、クルマの車内を胎内と考えれば、このエピソードが何故、クローネンバーグ監督を魅了したのか判るはず。
この映画は、電子世界を失った男が、リムジンの胎内を経て現実世界に生まれ落ちる話としても見る事が出来るのではないでしょうか？
この映画、映画としての見所はあり、クローネンバーグらしい世界を見せてくれるのですが、何事にも心動かされない主人公の心理を反映したかのように、物語は盛り上がらず、感情移入も出来ずで、かなり退屈。特に、リムジンを降りて、エリックの命を狙う脅迫者と対峙してからは失速した感もあります。
まぁ、これを「目を覚ましたままで観る悪夢」として楽しめればよいのでしょうけれど、これは観る人を選ぶと思います。
（２０１３年 ４月１４日 横浜ブルク１３にて）
（作品データ）
■監督
デビッド・クローネンバーグ
■出演
エリック・パーカー ・・・ ロバート・パティンソン
（その他のキャスト）
ジュリエット・ビノシュ サラ・ガドン マチュー・アマルリック ジェイ・バルシェル ケヴィン・デュランド
ケイナーン エミリー・ハンプシャー サマンサ・モートン ポール・ジアマッティ
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男は、自らを待つ死を知らなかった
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