悪の教典

 これは、貴志祐介の同題小説を、三池崇史監督が映画化したもの。

 晨光学院2年4組のクラス担任で英語教師の蓮実聖司は、明朗快活、頭脳明晰、仕事ぶりも熱心で、職員室での信頼も厚く、生徒たちからも“ハスミン”と言う愛称で呼ばれ親しまれている、理想の教師だった。
 しかし、彼は、良心や他人への共感が欠如したサイコパス(反社会性パーソナリティ障害)だったのだ。
 彼は他人の痛みや苦しみを理解せず、自己保身のためなら、例え殺人でも厭わない。
 そんな彼の本性に、一部の教師や生徒が気づき始め・・・

 サイコパスとは精神病ではなく、社会に適合出来ない性格異常とされています。その特徴は、感情や良心、思いやりの欠如、他人に対する極端な冷酷さ、結果至上主義などが上げられ、一説には人口の1%がそうだとも言われています。勿論、その殆どの人は普通に暮らしており、必ずしも犯罪傾向を示す訳ではないのですが、連続殺人犯や、常習的詐欺師などの多くが、こうした性格であると言われています。
 そんな社会の「困ったちゃん」に焦点を当てたこの映画、主役に起用されたのは、伊藤英明。
 伊藤英明と言えば、「海猿」主演の印象が強く、友情に篤く、何よりも人命を大事に考えるイメージですが・・・そんな彼が爽やかな笑顔のままで高校生を射殺する、何よりもそれがインパクト大。
 そして、残酷描写には定評のある三池監督だけに、情け容赦のない殺戮の嵐は凄まじいもの。
 最近、流血描写を抑える映画も多いなかで、この血塗れっぷりは半端ではありません。
 また、こうした映画では、知名度の高い俳優を長生きさせるか生き残らせるものですが、そうしたセオリーを無視し、観客の読みを裏切る展開もまた三池監督らしい所です。
 惜しいのは、殺される生徒の数が多く、エピソードを描き切れていないため、殺戮シーンが単調になってしまっていること。
 まぁ、東大を目指している優等生が、
 「ぼく、東大に行けますか?」と瀕死の状態で言ったのに、
 「To dies?」
 と返して射殺する、と言う洒落を盛り込んでいるなど、三池監督らしいケレン味のある演出もあったのですが・・・

 また、最近の映画では、悪人にも三分の理ではありませんが、「何故、そうなったのか」を描写することも多いのですが、三池監督、その辺りをばっさり切り捨ててしまっているのも潔い。
 確かに、その分、蓮見にはまったく感情移入が出来ず(何しろ、感情のない人間なのです)、そこを物足りないと思う人もいるかも知れません。
 また、映画の描写としても、ミステリー色はなく、恋愛描写などの人間ドラマも希薄ですし、かと言って、恐怖を盛り上げたりショック演出を入れるホラー映画定番の描写がなく、恐怖を盛り上げるのも今ひとつではあるのですが、何故か、インパクトのあるものを観た、と言う見応えは十分・・・これは、「ハスミン」と言う怪物が暴れ回る、一種の怪獣映画として成立しているのかも知れません。

 (2012年 11月17日 にて)


(作品データ)

 ■監督

三池崇史 

 ■出演

 蓮実聖司 ・・・ 伊藤英明

(その他のキャスト)
 二階堂ふみ  染谷将太  林遣都  浅香航大  水野絵梨奈  山田孝之  平岳大  吹越満  KENTA
 宮里駿  横山涼  堀越光貴  武田一馬  竹内寿  米本来輝  岸田タツヤ  荒井敦史  西井幸人
 秋山遊楽  中島広稀  藤原薫  永瀬匡  尾関陸  小島藤子  塚田帆南  岸井ゆきの  林さくら
 藤井武美  菅野莉央  山谷花純  神崎れな  山本愛莉  山崎紘菜  夏居瑠奈  綾乃美花
 伊藤沙莉  三浦透子  秋月成美  松岡茉優  藤本七海  兼尾瑞穂  宇治清高

 ■コピー

まるで出席をとるみたいに、先生はみんなを殺し続けたんだ。 

 ■Link

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