ツナグ
これは、辻村深月の同題小説を映画化したファンタジードラマ。
死んだ人に一度だけ会わせてくれる、“使者（ツナグ）”と呼ばれるあの世との仲介役がいるらしい――そんな噂話に半信半疑で連絡を取った者の前に現れたのは、ごく普通の高校生だった・・・
ツナグに出会うのは、亡き母に会いたいと願う、横柄な工務店社長、親友にもう一度会いたいと言う女子高生、そして、プロポーズ直後に消えた婚約者を待ち続ける男。
この３つのエピソードを通して、物語は生者と死者との繋がり、そして、生きて行く事の意味を描いて行きます。
ファンタジックな設定の物語ですが、映画は、ＣＧなどの特殊効果を使用する事なく映像化しています。
この現実離れした設定を、観客に飲み込ませるべく、映画は、ツナグ見習いの歩美を主人公に、祖母で先輩ツナグのアイ子から、ツナグの仕事を習う、と言う形をとりました。
また、このアイ子を、独特の存在感と、常人とは違うオーラの持ち主でもある樹木希林が演じることで、映画内での説得力を持たせたのもさすが、と言えるでしょう。
３つのエピソードを通じ、歩美がツナグとなることを決意するまでを描く訳ですが、この３つのエピソードの中では、２つ目の女子高生のエピソードの印象が強い・・・と言うか、これは余りに残酷な話です。
ちょっとしたすれ違いと、嫉妬心が生んだ、ささやかな殺意。それが、本当に事故になってしまう。
動揺と後悔、そして恐怖・・・お互いに疑心暗鬼で臨んだ対面シーンは静かな迫力がありました。
そして、結果として「本当の事」を伝えられず、恐らく、一生悔やむ程の傷を負った彼女の絶叫に近い謝罪の言葉・・・決して届かないその想いを彼女はあの世まで抱えて行くしかないのです。
これまでクールな役柄が多かった橋本愛が、別人かと思う程に表情を歪めて泣き叫ぶ熱演を見せた、このシーンのインパクトは強烈でした。
人はみな誰かの気持ちを受け止めて生きている。生きている人からも、死んだ人からも。
それは思い込みかもしれないけれど、それでも、受け止めた気持ちを背負って前に進む。
それが「生きる」と言う事なんだ、と、この映画は静かに語ります。
これは、心を暖かくする、いい映画でした。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
平川雄一朗
■出演
渋谷歩美 ・・・ 松坂桃李
渋谷アイ子 ・・・ 樹木希林
（その他のキャスト）
橋本愛 大野いと 佐藤隆太 桐谷美玲 遠藤憲一 八千草薫
別所哲也 本上まなみ 浅田美代子 仲代達矢
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