桐島、部活
やめるってよ
これは、２００９年に小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウの同題小説を吉田大八監督が映画化した学園青春ドラマ。
男子バレーボール部のエースである桐島が突如、退部した。
桐島頼りのバレーボール部が混乱するのは当然だったが、友人や彼女にもそのことを告げずに姿を消した桐島が生み出す動揺により、事態は思わぬ方向に広がりを見せていく。
運動部と文化部、イケてるグループとイケてないグループ・・・そんな暗黙の了解によって作られた、学校内の人間関係が微妙に変化して・・・
映画の舞台は現代の高校ですが、そこに描かれているのは、時代を越えて普遍的なものかも知れません。映画を観る人の多くが、これを観て思い当たる節があちこちにあるのではないでしょうか？
もっとも、その「思い当たる節」は決して青春の爽やかな思い出ではなく、鬱陶しくも恥ずかしい、「痛い」記憶の部類であるはず。
この映画は、そんな現実をリアルに描いているのです。
そんな鬱陶しい物語の中心となるのは、野球部をドロップアウト気味の菊池宏樹ではないでしょうか。
抜群の運動神経で、野球部の中心選手だった宏樹。
しかも、勉強も出来、イケメンで、学校内でも目立つ彼女もいる、“イケてる”グループの代表格。
冒頭、彼は「出来るヤツは何だって出来る、出来ないヤツは何にも出来ない」と言い放ちます。勿論、自分は何でも出来る、と自負して。
でも、宏樹には判ってしまっているのです。
いくらスポーツに打ち込んでも、プロになれる可能性は極めて少なく、勉強に打ち込んだとしても、このご時世で、将来が保証される訳でもない。
そうした現実を「知ってしまった」宏樹は、何に対しても醒めてしまっているのです。
（映画では描かれませんが、桐島が退部したのも似たような理由なのでしょう）
そんな宏樹の心を揺さぶるのが、諦めの悪い野球部の先輩であり、ただ、ひたむきに宏樹を好きな吹奏楽部の部長の沢島亜矢であり、そして、映画部の前田なのです。
トロく、カッコ悪く、「イケてない」と蔑まれる前田ですが、彼も宏樹同様、自分を見切っているのです。
でも、前田は「コレが好きなんだ」と今や骨董品の８mmカメラを回し続けます。
そんな前田の姿に、宏樹は涙するのです。
学校内でのステータスを高める全てを手に入れながらも、いつの間にか、その手の中からこぼれ落ちてしまった「夢」を、誰にも譲れない大事なものを持っている前田が眩しくて、宏樹は泣くのです。
人を「勝ち組」と「負け組」に仕分け、持たざる者を不幸、と決めつける現代で、一体、何が大切なのか、本当の「勝ち組」とは何か、この映画は一歩引いた視点から、それを描こうとしているように思えました。
しかし、それが「判る」のは、映画に描かれる若者たちよりずっと上の世代のような気がします。
大事なものは、それを無くして初めて判る。
鑑賞後、そうした「痛さ」も残る、切なくも痛い、辛口青春映画でした。
（月日 ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）
（作品データ）
■監督
■出演
前田涼也 ・・・ 神木隆之介
菊池宏樹 ・・・ 東出昌大
沢島亜矢 ・・・ 大後寿々花
（その他のキャスト）
橋本愛 清水くるみ 山本美月 松岡茉優 落合モトキ 浅香航大
前野朋哉 高橋周平 鈴木伸之 榎本功 藤井武美 太賀
一井直樹 栗原吾郎 永井秀樹 猪股俊明 桜井聖 平田伊梨亜
植村純奈 井上沙映 谷相奈瑠美 渡辺雅之 奥村知史 岩井秀人
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全員、他人事じゃない。
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