ＲＩＶＥＲ
−秋葉原から新しい明日へ−
これは「余命１ヶ月の花嫁」や「軽蔑」の廣木隆一監督が、蓮佛美沙子を主演に描くヒューマンドラマ。
２００８年６月に秋葉原で起きた無差別殺傷事件で恋人の健治を失ったひかり。
健冶のいない現実を受け入れることが出来ず、家に引きこもっていたひかりだが、やがて、健冶の見ていた世界を見たい、と秋葉原の街を彷徨うようになる。
そこで出会った人たちが、ひかりを少しずつ変えていく・・・
秋葉原駅前に降りたひかりを、カメラが追い、ソフマップの手前まで歩くまでを１カットで捉えた長回しで始まった映画。
この映画、こうした長回しのカットが多く、ラストの神田川を行く船上のひかりの表情を捉えた長回しなど、役者にとってはキツい映画だなぁ、と。
主演の蓮佛美沙子は、よくその長回しに応えて見事な芝居を見せています。
この辺り、これまでの映画でも女優の新たな魅力を引き出して来た、廣木監督らしい部分です。
ドラマの方は、恋人の死と言う喪失感から立ち直ろうとするヒロインの姿を通して、人の生きる意味を問いかけるものになっています。
その再生の舞台を、仮想と現実が入り交じる、秋葉原と言う街に設定したのは面白い狙い。
特に、「違う自分になる」と言うメイドカフェの店員が、素の自分に戻れば自分を見失っていて・・・と言うのは、いかにも「らしい」設定だな、と。
ただ、この映画、そうしたアイデアや設定が上手くまとまらず、バラバラで、何処か空虚な印象を与えてしまっています。
それは、映画製作中に起きた東日本大震災。
終盤、「これが現実だ」と突きつけられる震災被害と言う巨大な現実。
己を見失い、仮想と現実の境が曖昧な秋葉原に集う若者の感傷など吹き飛ばしてしまう衝撃は、映画のドラマをも粉砕してしまったように思いました。
正に、ひかりの抱えていた問題など消し飛ぶような「現実」・・・しかし、映画が「現実」に負けてしまうのは果たしてありか。
そんな釈然としない想いが残りました。
（２０１２年３月１１日 渋谷 ユーロスペースにて）
（作品データ）
■監督
廣木隆一
■出演
ひかり ・・・ 蓮佛美沙子
（その他のキャスト）
中村麻美 根岸季衣 尾高杏奈 菜葉菜 柄本時生
田口トモロヲ 小林ユウキチ
■コピー
私は歩く、歩いてゆく
■Ｌｉｎｋ
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