戦火の馬
これは、デビッド・モーバーゴの児童向け小説を、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化したもの。
第一次大戦を舞台に、１頭の馬の数奇な運命を描いた映画です。
イギリスの農村、デヴォンの牧場で生まれた一頭の馬。
貧しい小作農テッドによって競り落とされたその仔馬は、息子のアルバートが世話をすることに。ジョーイと名付けられた馬は、アルバートの注ぐ愛情を受け、立派に成長する。
やがて、第一次大戦開戦。借金返済のため、ジョーイは英国軍に売られてしまい、戦場に向かうことになる。
すぐ終わると思っていた戦争は長期化し、泥沼の戦場で、ジョーイは運命に翻弄されつつも生き抜いて行くが・・・
第一次大戦でイギリス軍兵士の戦死者は８８万人以上になりますが、軍馬として徴用された馬たちも同様に過酷な運命を辿りました。
軍馬としてドーバー海峡を越えた馬は１００万頭を越えますが、戦後、イギリスに戻って来たのは僅か６万２０００頭に過ぎなかったのです。
原作の小説は、その馬にとっても過酷な戦争だった第一次大戦を、馬の視点で描いたものでしたが、映画は、その原作を元に、いかにもスピルバーグらしい映画的魅力に溢れるものになっています。
テーマとしては、愛するもの、かけがえのないものを奪っていく、戦争と言う過酷な現実に対し、決して諦めない強さを描くもの。
いささか古いテーマであったとしても、動物と少年と言う最強の切り札は強い。その決してくじけない心、望郷の想い、そして絆の強さを高らかに謳い上げる物語には胸が熱くなります。
また、スピルバーグらしい、コミカルなシーンも多く、思わず笑ってしまうようなシーンが幾度もあります。
笑いあり、悲劇あり、そして最後には感動、と、映画の王道を行くような、まるでど真ん中、ストレートのような仕上がりで、非常に見応えがありました。
特筆すべき点はふたつ。
ひとつはジョーイとアルバートの大事な故郷であるデヴォンの風景。
映画冒頭、正に目を奪われる美しい風景と、その中を駈けるジョーイ・・・最早、それだけで絵になる、いつまでも見つめていたいと思わせる映像でした。
そして、もうひとつは、ジョーイを始め、出演する馬たちの演技の素晴らしさ。
スピルバーグ監督、この映画では、ＶＦＸを最小限しか使わず（実は、最近の映画にしては珍しく戦闘シーンも大規模なオープンセットで撮っています）、ＣＧ操作をしてないとすれば、馬たちは実際にあの芝居をしていたと言うことか・・・これには本当にびっくりしました。
（２０１２年３月４日 ＴＯＨＯシネマズ川崎にて）
（作品データ）
■監督
スティーブン・スピルバーグ
■出演
アルバート・ナラコット ・・・ ジェレミー・アーヴァイン
（その他のキャスト）
エミリー・ワトソン デヴィッド・シューリス ピーター・ミュラン ニエル・アレストリュプ
トム・ヒドルストン ベネディクト・カンバーバッチ トビー・ケベル セリーヌ・バッケンズ
■コピー
２０１２年春──スピルバーグ監督が「希望」を描く。
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