哀しき獣
THE YELLOW SEA
これは、監督デビュー作「チェイサー」が話題となったナ・ホンジン監督、２本目の映画。
借金返済のため殺人を請け負った男の運命を描くクライム・サスペンスです。
中国延辺朝鮮族自治州で暮らすグナム。
韓国に出稼ぎに行った妻のビザ取得費用として借りた６万元の返済を迫られていた。
だが、妻からは連絡も送金もなく、荒んだ生活をするようになったグナムは、タクシー運転手として稼いだ僅かな金を賭け麻雀につぎ込んでいた。
ある日、グナムは借金取りからミョンと言う男を紹介された。ミョンは、韓国に密入国してある男を殺す事と引き換えに、借金を肩代わりする、と言う。
借金を返済、あわよくば韓国で妻を見つけて連れ戻すべく、グナムは取引に応じたのだが・・・
「チェイサー」のヒットを受け、本作は、韓国映画としてかなり力の入った映画になっています。
５０００にもなる撮影カット、製作期間も通常の倍の３００日。韓国映画としては派手なカーアクション（と言うか本作のはカークラッシュシーンですが）もあり、アクションは見応えがあります。
ただ、あまりに細かくクローズアップのカットを繋いだ演出手法は、スピード感と言うよりもあまりにせわしなく、逆効果ではと思うこともしばしば。
また、主人公・グナムの危機の切り抜け方があまりに芸がない（基本、力業の強行突破だけなので）のも、アクションの盛り上げを欠いているように感じられました。
また、この映画、銃撃戦となることがなく、基本、包丁や斧と言う刃物を使っての肉弾戦。
過剰では、と思えるほどの流血、痛さのある打撲シーンと、韓国映画ならではのえげつなさもこれでもか、と言うほどにあります。
ただ、この映画、殺し合いのシーンは男同士で、女子供など弱者相手の暴力シーンが少ないのは救いと言う所でしょうか。
ただ、この映画の問題は、ドラマの弱さ。
確かに、捨て駒にされ、逃げ道も、未来もない、追い詰められた男の悲哀は存分に描かれていますし、それを“狂犬”と重ね合わせた辺りはよいのですが、追い詰められた男が、死ぬ前に知りたいと願った「真実」をドラマチックに描かなかった辺りは不満を感じました。
このドラマでは、確かにカタルシスもなにもないでしょうけれど、それでも納得の出来る終わり方ってものがあるのではないかと思いました。
（２０１２年１月１１日 横浜ブルグ１３にて）
（作品データ）
■監督
ナ・ホンジン
■出演
グナム ・・・ ハ・ジョンウ
ミョン ・・・ キム・ユンソク
（その他のキャスト）
チョ・ソンハ イ・チョルミン カク・ピョンギュ イム・イェウォン タク・ソンウン
イーエル チョン・マンシク
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この闇には、一縷の光さえ届かない――
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