灼熱の魂
これは、ヴェネチア国際映画祭で最優秀作品賞を受賞したカナダ映画。
母の遺言により、死んだはずの父といないはずの兄を訪ねる姉弟の旅を通して、母の壮絶な半生を紐解いて行くと言う、ミステリータッチのドラマです。
中東系カナダ人女性、ナワル・マルワンの死後、双子の姉弟のジャンヌとシモンには謎めいた遺言が残された。
遺言によれば、死んだはずの父といないはずの兄を訪ね、手紙を渡すまで、墓石を置いてはいけないと言う。
バカバカしい、と遺言を無視し、通常の葬儀を済ませようとするシモンを余所に、ジャンヌは、母の母国に向い、その故郷の村を訪ねるのだが・・・
この映画、舞台劇が原作と思えないスケールとダイナミックな映像で描く、ギリシャ神話悲劇のような重厚なドラマ。
映像の美しさとスケールの大きさは見事ですし、緻密な脚本にも唸らされます。
惜しいのは、ナワル・マルワンをひとりの女優（＝ルブナ・アザバル）が演じているので、その４０年以上の時間の流れが掴み難い、と言うこと。
確かに、ルブナ・アザバルの演技自体は見事ですし、メイクや髪型で変化はつけているのですれど、ナワルが最初の子供を妊娠した時はまだ１０代の頃で、それを演じるのはちょっと厳しい、と言うか・・・そこから、反政府活動に転じて刑務所に収監されるまで１０年以上経っている、その時間の流れを感じさせるのが難しかったように思います。
ジャンヌとシモンが直面するのは、宗教間の抗争により、血みどろの内戦となった歴史の流れの中を生きて来たひとりの女性の辿る過酷な運命。
そのあまりの過酷さは、人生の最期で彼女の生きる気力さえ折ってしまいます。
でも、彼女は、そうなっても尚、その運命を、その事実を子供たちに伝えようとしました。
その事実を知る事が、暴力の連鎖を断ち切る事になることを信じて、そして、自分が、どれほど子供たちを愛していたかを――
このドラマには、さすがに圧倒されました。
そして、どんな過酷な歴史でさえも、それを受け止め、乗り越えることで解き放たれる、と言う監督の強いメッセージを感じました。
（２０１２年１月４日 ＴＯＨＯシネマズシャンテにて）
（作品データ）
■監督
デニ・ヴィルヌーヴ
■出演
ナワル・マルワン ・・・ ルブナ・アザバル
ジャンヌ・マルワン ・・・ メリッサ・デゾルモー＝プーラン
シモン・マルワン ・・・ マキシム・ゴ−デット
（その他のキャスト）
レミー・ジラール アブデル・・ガフール・エラージズ アレン・アルトマン モハメド・マジュド
ナビル・サワラ バヤ・ベラル
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