裁判長！ここは懲役４年でどうすか

　これは、実際の裁判を傍聴してレポートした、北尾トロの同題のドキュメンタリー・エッセーを、お笑いコンビ「バナナマン」の設楽統主演で映画化したもの。
　裁判映画はこれまで数多く作られていますが、基本的に裁判に関わる当事者の視点で作られて来たのに対し、この映画は、第三者である「傍聴人」が主人公と言う、恐らく前代未聞の異色の裁判映画になっています。

　売れない放送作家の南波タモツは、プロデューサーから「愛と感動の裁判映画」の脚本を執筆するよう依頼を受け、取材のため裁判所で実際の裁判を傍聴する事になった。
　そしてのぞき見た裁判所は、生々しいリアルな人間ドラマの場。
　会社の同僚を大根で殴り殺してしまった男、万引きしたＡＶのタイトルにやたらこだわる被告人、傍聴人が多いとやたら張り切る裁判官、ヤクザの親分の裁判で涙を流す子分たち・・・　
　やがてタモツは裁判所でしばしば出会う「傍聴マニア」たちと親しくなり、彼らと共にひとつの裁判に深く関わっていくことになるのだが・・・

　原作は、傍聴者の視線から裁判での悲喜劇を淡々とレポートし、それに作者、北尾トロのセンスを効かせたコメントをつけることでエッセーに仕立てているのですが、それでは映画になりません。
　これをどうやって１本の長編映画にするかと言う事が、この映画にとっての課題だったはず。
　映画は、前半、原作の雰囲気を、様々な裁判にタモツの所感をつけて見せることで再現、後半は、ひとつの裁判に絞ってドラマを盛り上げる・・・これはなかなか工夫された構成で、低予算のＢ級作品と言う制約の中でまずまずの成功をみせているように思えました。
　ただ、「面白がる」のは傍観者だから出来ること。傍観者である傍聴人の立場を変え、裁判に関わっていく後半は、前半で見せていた傍観者だからこそ感じられる面白さを自ら否定しまっているようで、ちょっと残念でした。
　（無責任なようですが、だからこそ面白いんです、傍観ってのは）

　設楽統は映画初主演ながら、気負いのない飄々とした存在感を見せて好印象。相方の日村勇紀もちゃんと出番があります。

　映画の雰囲気はいかもにも低予算、貧乏臭さがあるのは残念ですが、知ってるようで知らない裁判の実情を垣間見ることが出来る情報エンタテインメント作品として見所のある映画だと思います。

　（月日　にて）

（作品データ）

　■監督

豊島圭介　

　■出演

　南波タモツ　・・・　設楽統

（その他のキャスト）
　片瀬那奈　　螢雪次朗　　村上航　　尾上寛之　　木村了　　堀部圭亮　　斎藤工
　徳永えり　　前田健　　阿曽山大噴火　　杉作J太郎　　日村勇紀　　竹財輝之助
　廣川三憲　　千葉雅子　　市川しんぺー　　佐藤真弓　　モト冬樹　　大石吾朗
　平田満　　鈴木砂羽

　■コピー

傍聴、無料。立ち見、不可。 　

　■Ｌｉｎｋ

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