ヌードの夜
愛は惜しみなく奪う
これは劇画家にして、脚本家、映画監督としても知られる石井隆の新作。
石井隆が劇画家時代から描き続けてきた「名美」シリーズの番外編とでも言うべき作品となります。
今回の映画は１９９３年に余貴美子と竹中直人主演で作られた「ヌードの夜」の続編となる作品ですが、名美は登場せず、竹中直人演じる紅次郎が、れんと言う“運命の女”に出会う話になっています。
「代行屋」の看板で便利屋稼業をしている紅次郎は、ある日、れんと名乗る若い女から「富士の樹海でロレックスを探してほしい」という依頼を受けた。
亡くなった父の遺骨を飛行機から散骨する際、誤って遺品のロレックスを樹海に落としてしまったというのだ。
いかにも嘘くさい説明だが、純情そうな少女の面影を残すれんに心惹かれた次郎は、仕事を受けた。樹海の中を捜索し、何とか探し当てたロレックスには、腐敗臭を放つ肉片がこびりついていた。
さすがに怪しいと睨む次郎に、れんは、今度は別の人捜しを依頼。
次郎は知らず知らずのうちに、れんが抱える闇に飲み込まれていく・・・
この映画のヒロイン、れんを演じる佐藤寛子は、彼女のキャリアからすれば大抜擢と言っていいキャスティング。
これまでの石井隆作品では、「名美」を余貴美子を筆頭に、夏川結衣、大竹しのぶと言った名女優が演じているのですが、佐藤寛子は、その卓越した肉体美でもって、この歴代の名美に決して劣らない存在感を見せつけます。
これまでの名美が、運命に翻弄され、奈落の底に突き落とされるのに対し、れんは、スタート時点が奈落の底。そこから自らの肉体だけを頼りに這い上がる、れんの姿は、これまで目立ったキャリアがなかった佐藤寛子が、全てを曝け出して見せる体当たりの演技を以って迫真のものとなりました。
学生時代、生徒会長だったと言う佐藤寛子は優等生イメージが強く、グラビアアイドルの中でも清純派の位置付けであったのに、この映画で見せる悪女ぶりは強烈。
悪魔の如き・・・いや、正に天使のような傍若無人の大胆さで、周囲の人間を片端から破滅させ、天空へ駆け上がろうとするのです。
また、石井隆ならではの官能性も濃厚。
「エロス」をここまで描ける作家もそうはいないでしょう。
通常、カラミの撮影で前張りをしない竹中直人が、カットの声に思わずバスタオルで股間の本気印を隠したと言うのも頷けると言うものです。
終盤の展開も意味深。
“運命の女”れんを失い、打ちひしがれた次郎が再び歩み出す姿は、最愛の妻を失い、「名美」シリーズから離れていた石井隆監督が、再び“運命の女”をスクリーンに描き上げる、その姿に重なります。
また、そのきっかけが、「食」であるのも興味深い所。
タナトス（死）に相対するのはエロス（生、性）であるのですが、この映画では、エロスが濃密にタナトスに絡みついているので、より根源的な描写になったのでしょうか？
ラストシーン、次郎が生きる気力を見せた、食事の風景が、寒々しくも孤独で、「食卓を囲む」ようなものではなかった所にも時代の空気を感じられ、最後まで唸らされる映画でした。
（１０月３日 川崎チネチッタにて）
（作品データ）
■監督
石井隆
■出演
紅次郎 ・・・ 竹中直人
加藤れん ・・・ 佐藤寛子
（その他のキャスト）
大竹しのぶ 井上晴美 東風真知子 宍戸錠
津田寛治 伊藤洋三郎 山口洋行 中山峻
美景 飯島大介 矢沢幸治 中野剛
■コピー
女は汚れた自分の人生を、どんな手を使ってでも“削除”したかった。
男はたとえ彼女に殺されても、彼女を救いたかった。
■Ｌｉｎｋ
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