エンター・ザ・ボイド
ENTER THE VOID
これは、「アレックス」で、フランス映画界を騒然とさせた鬼才、ギャスパー・ノエ監督の新作。
監督ならではの、ケレン味溢れる映像で描くトリップ・ムービー。
物語の舞台は東京。
ドラッグディーラーとして当てもなく暮らす青年オスカー。彼はドラッグで稼いだ金で、愛する妹のリンダを日本に呼び寄せる。
ある晩、警察の取締りを受けたオスカーは、拳銃で撃たれ、死亡。
その魂は、肉体を離脱。だが、リンダを愛するあまり、この世から去ることができないオスカーの魂は、リンダの姿を求めて夜の東京をさまよい、漂っていく・・・
この映画、“トリップ・ムービー”と言うので、てっきりジャンキーの見る幻想世界を見せてくれるのか、と思っていたら、これは予想はずれ。
麻薬でトリップどころか、完全に「逝ってる」視点で描く、異色の映画です。
勿論、マジックマッシュルームやＬＳＤなどのドラッグが見せる幻覚も映像化され、ジャンキーの世界を疑似体験させてくれるのです（これはこれでなかなかのもの）が、映画の大半は、死んでしまったオスカーの魂の視点になります。
これがなかなかスゴい。
臨死体験で、魂が抜け出し「自分を上から見下ろしていた」と言うような事を聞きますが、この映画、ほぼその視点。
自分の死体を見下ろす視点に始まり、その後、カメラの視点は、ほぼ上からの見下ろしになります。
これはなかなか面白く、また、「どうやって撮ったのだろう？」と思わせる、トリッキーなカメラアングルもあります。
この辺りは、もう“異端の映像作家”、ギャスパー・ノエの本領発揮と言う所でしょう。
ただ、今回の映画は、前作「アレックス」より随分と観客に優しくなりました。
（さすがにアレはやり過ぎだったのではないでしょうか）
構成もまともですし、物語も、これは意外なくらいまともで、シンプル。
これは迷える魂が、落ち着く所を見出して輪廻転生を遂げる、と言う物語。要は、魂の彷徨です。
もっとも、その描写は、ケレン味たっぷり、と言うかかなりエグい。（それでも「アレックス」よりマシです）
セックスとドラッグ、流血と死に彩られた映画には拒否感を覚える人も少なくないだろう、と思います。
映像のぶっ飛び具合も相変わらず。
魂の視点ですから、空を飛び、壁を通り抜け、あるいは別人の脳に入り込んで、その人の視線にもなってしまう。
最後には、性交中の膣内の視点になり、射精された精液の中に入っていく・・・この辺りの発想には呆れるばかりです。
ちょっと惜しかったのは、音楽をダフト・パンクのトーマ・バンガルテルが担当しているのにも関わらず、これを前面に出して来ているように思えなかったこと。
映像がスゴいので、音楽も迫力が欲しい気がしました。（これは上映の問題かもしれませんが）
これは好き嫌いが別れるとは思いますが・・・奔放な発想で観た事のない世界を魅せる、それが映画なのだとすれば、これはこれで立派な映画だと思います。
（５月１５日 １０９シネマズＭＭにて）
（作品データ）
■監督
ギャスパー・ノエ
■出演
オスカー ・・・ ナサニエル・ブラウン
リンダ ・・・ パス・デ・ラ・ウエルタ
（その他のキャスト）
シリル・ロイ オリー・アレクサンデル サラ・ストックブリッジ 丹野雅仁
エミリー・アリン・リンド ジェシー・クーン エド・スピア 松本さゆき
■コピー
２０１０年 ＳＥＸとマジックマッシュリームの旅
■Ｌｉｎｋ
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