空気人形
これは、「誰も知らない」の是枝裕和監督の新作。
一本ごとに違った味わいを見せる是枝監督、今度は珍しい原作付き。
業田良家の「ゴーダ哲学堂」に収められた短編「空気人形」を元にした、ロマンティックファンタジーです。
“のぞみ”は、孤独な中年男が所有するダッチワイフ。
古くて安物の空気式の人形だけど、男が人間同様に扱ううちに、ある日、そこに命が吹き込まれる。
男の留守に、服を着て街に出るのぞみ。
子供のような好奇心であちこち歩き回った末、ふと立ち寄ったビデオ店で、のぞみは店員の青年・純一に一目惚れ。
そして、のぞみは自分が「心」を持ってしまった事を知る・・・
のぞみを演じるのは韓国人女優、ペ・ドゥナ。
まるで人形のように綺麗に整った顔立ちの女の子は他にもいるだろうし、さすがに歳も感じます（すでに２９歳）が・・・正に人形のような大きな目と、卓越した演技力で「動く人形」を見事に演じます。
なるほど、監督が求めたのは、この演技力か。
また、たどたどしい日本語も、役には合っていたように思います。
スレンダーな肢体はセクシーと言うよりも綺麗な感じで、ヌードやセックスシーンも意外なほど興奮させませんが・・・空気を吹き込まれるシーンがこの上なく艶めかしく感じられました。
気になったのは、この映画、ちょっとキャストが豪華に過ぎるのではないか、と言うこと。
元々、是枝監督の映画は、セミドキュメンタリー風の現実味たっぷりの作風な訳で・・・そこに、顔が売れている有名俳優を使うと、何と言うか作り物感が出て来てしまうようで・・・
映画が描くのは都会を生きる人々の孤独と空虚さ。
誰もが心にぽっかりと穴を開け、空虚な自分を抱えています。
だからこそ、そんな人々の中に、身体の中が正に空虚なのぞみが溶け込んで違和感がありません。
「わたし、空っぽなの」
と、途方に暮れるのぞみに、
「私もそうさ。近頃はそう言うのが増えてきた」
と諭す、老人の言葉こそ、この映画が描こうとする世界でしょう。
誰もが孤独で、心に開いた穴を埋める何か、あるいは心を満たしてくれる誰かを探している・・・これは、そんなテーマを映像で綴る詩。
是枝裕和は詩人ですねぇ。
でも、その詩はただ美しいだけではなく、社会に、人々の心に斬りつける刃を鋭さを持っています。
「誰も知らない」が持っていた映像詩の切れ味を久々に感じました。
いい映画だと思います。
ただ、これが心に響くと言うは、やはり心にぽっかりと隙間があるせいかもしれないけれど。
（９月３０日 ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）
（作品データ）
■監督
是枝裕和
■出演
のぞみ ・・・ ペ・ドゥナ
純一 ・・・ ARATA
（その他のキャスト）
板尾創路 高橋昌也 余貴美子 岩松了 丸山智己 奈良木未羽
柄本佑 星野真里 寺島進 山中崇 襄ジョンミョン 桜井聖
吉村実子 オダギリジョー 富司純子
■コピー
私は「心」を持ってしまいました。持ってはいけない「心」を持ってしまいました。
■Ｌｉｎｋ
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