群青
gunjou
愛が沈んだ海の色
デビュー作「青い魚」以来、沖縄を舞台にした映画を撮り続けている中川陽介監督の新作は、那覇の北西５８キロにある渡名喜島を舞台に描く悲劇です。
今まで小規模な映画を製作していた中川監督ですが、長澤まさみを主演に起用して全国公開と言う、これまでにないメジャーな作品になっています。
これは、同じ島で育った同い年の３人の若者たちが織りなす悲しい物語。
島一番のウミンチュ（漁師）の龍二のひとり娘として、父の手ひとつで育てられた涼子は、幼なじみのウミンチュ・一也に告白されて結婚の約束をする。
ふたりの幼なじみの大介は、一也が涼子と結ばれたことを素直に祝福できぬまま島を去る。
一方、龍二に涼子との結婚を認めてもらいたい一也は、自分が一人前のウミンチュであることを証明するため、深い海底からサンゴを採ってくることを決意。しかし無理をしすぎて死んでしまう。
それから一年。島に大介が戻ってきた・・・
この映画に出てくる沖縄の風景は、誰もが連想する、いかにも南の島、沖縄と言えるもの。
青い海、白い砂浜、赤瓦の民家、美しい珊瑚礁。
しかし、中川監督は、“沖縄＝癒しの島”と言うイメージをぶち壊し、暗い物語を展開させます。
文字通りに“癒し”を求めて島に来た病身のピアニスト（＝涼子の母）は、結局、癒しを得られずに死んでしまいます。島で生きる決意をした若者、一也は、海に飲み込まれて死にます。死んだ若者の父親も、やはり海で死んでいます。
恋人を失った涼子は狂気に陥り、彼女を恋い慕う大介は死んだ友への嫉妬に身を焦がします。
小さな島の小さく閉じた人間関係の中に、死の記憶と、後悔と、嫉妬が折り重なっています。
美しい島で展開する、どろどろとした暗い、愛と死のドラマ。
この主役に選ばれた長澤まさみ、どうなるものか、と思いましたが、まぁ、及第点ではないでしょうか。
後半、持ち味の輝くような笑顔を封印、暗く沈んだ狂気を見せたのは、なかなかのもの。その狂気から、一歩、踏み出した心境を、瞳だけで語ってみせた終盤の演技には、感心させられました。
原作には濃厚な官能シーンもある、と言う事で、一部ではそうした描写を期待されていたようですが、これは本人の意図だけでなく、様々な思惑もあるでしょうからね。
物語は、形として「死と再生」を描いているものの、「再生」は言い訳程度に軽く扱われているだけです。
この結末が取って付けたような予定調和に見えて仕方ありませんでした。こう終わらせるのが娯楽映画の約束なので、とりあえずはそちらに話を振ってみただけ、と言う感じがするのです。
いっそ、嫉妬に狂った大介が、傷心のままに島から逃げ出し、島には狂気の涼子だけが残される、と言うラストにしていたら・・・観客はどん底に突き落とされるでしょうが、映画の完成度はより高まったかもしれません。
（月日 にて）
（作品データ）
■監督
中川陽介
■出演
龍二 ・・・ 佐々木蔵之介
涼子 ・・・ 長澤まさみ
（その他のキャスト）
福士誠治 良知真次 今井清隆 宮地雅子 畠山美由紀
井之上史織 土屋神葉 渡部駿太 洞口依子 平敷慶吾
桑江良美 新垣正弘 玉城満 田中美里
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もし私がこの島に生まれなければ
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