いけちゃんとぼく
これは、マンガ家・西原理恵子が初めて手がけた同題の絵本を映画化したもの。
原作絵本は、フジテレビの情報番組「ベストハウス１２３」で「絶対泣ける本」の第１位になっていると言う感動作です。
海に近い田舎町で、両親と共に暮らす小学生のヨシオが主人公だ。彼にはいけちゃんという、他人には目に見えない不思議な友だちがいる。
学校でイジメられたり、別の子をイジメたり、父親が死んだり、女の子と仲良くなったり、憧れのお姉さんに失恋したり、隣町の子供たちとケンカしたり・・・小学校４年生の夏、いろんな出来事を通して少しずつ成長していくヨシオを、いけちゃんはいつも優しく見守っていた・・・
ぼくを演じるのは深澤嵐。映画出演の多い子役で、なるほど、なかなかいい面構えだなぁ、と思います。
しかし、特筆すべきは、いけちゃんの声を演じた蒼井優でしょう。
何だか判らない、嘘臭くなってしまう“いけちゃん”に命を吹き込んだのは蒼井優の声。これはもう、大したものだとしか言い様がありません。
この映画、物語は、いけちゃんの存在を除けば、よくある「成長物語」です。
さまざまな出会いや事件を通して、少しひ弱なところがある男の子が、自分の居場所を見つけ、大人への階段を登りはじめていく様子を描きます。
しかし、この映画、そうしたありきたりの「成長物語」だと思って観ていると、最後に、これはラブストーリーだと気づかされる二重構造になっています。
そう思って映画を最初から思い返すと、映画の中の様々な場面のひとつひとつが、いちいちラブストーリーとして納得出来、観客を感動させるようになっています。
いけちゃんはヨシオの想像上の友だち（＝もうひとりの自分）ではなく、妖怪変化でもなく、ヨシオを想う他者なのです。
実は、その伏線は映画の冒頭で張られてはいるのだけど、「男の子の一夏の成長物語」という定型化されたドラマによって、観客はすっかりそのことを忘れさせられてしまっており、終盤に至って、ああなるほどと思わせられます。
この辺り、何とも巧妙な作りになっています。
ラブストーリーといっても、これは「恋愛」よりも一途で純粋な「愛情」の物語。
でも、人ではない“いけちゃん”の注ぐ愛情は、男女間の「恋愛」より普遍的な「愛情」であり、むしろ「母の子に対する愛」を思わせる部分があります。
人はひとりで大人になるのではありません。多くの愛情に包まれながら、子供から大人に成長するのです。
その成長を見守るいけちゃんの愛情は、大人だけでなく、子供にもごく自然に判るもの。
雨の週末だけに、劇場内には子供も多く、序盤から中盤にはお喋りも聞こえていましたが、終盤、いけちゃんの気持ちが露わになるシーンでは、劇場、水を打ったように静まりかえり、子供達までスクリーンに集中。いけちゃんとの別れのシーンではすすり泣きの声があちこちで聞こえるようになりました。
勿論、子供だけでなく、これには大人も涙、涙。
なるほど、「絶対泣ける」に嘘はありません。
西原理恵子はいい仕事をしますねぇ。
（６月２１日 １０９シネマズ川崎にて）
（作品データ）
■監督
大岡俊彦
■出演
ぼく ・・・ 深澤嵐
いけちゃん ・・・ 蒼井優（声の出演）
（その他のキャスト）
ともさかりえ 萩原聖人 モト冬樹 蓮佛美沙子 柄本時生
江口のりこ 上村響 村中龍人 中村凛太郎 白川裕大
窪田傑之 宮本愛子 山田スミ子 西原理恵子 たくませいこ
ちすん いとう麻見 ニタ・ニコルソン 峯のぼる 中谷潔一
上松勝寿 北代一也 大谷美香 大木瞳美 池松壮亮
岡村隆史 吉行和子
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わすれないでね 好きだと必ず帰ってこられるの。
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