６０歳のラブレター
LOVE LETTER as SIXTY
これは、人生の節目を迎えた６０歳前後の３組のカップルを主人公にした大人のラブストーリー。
住友信託銀行が毎年行っている応募企画「６０歳のラブレター」・・・これは、長年連れ添った夫婦が、互いへの感謝の言葉を手紙に綴るもの。２０００年から毎年募集され、日本中から８万通を超える手紙が寄せられ、大きな反響と共感を得ていると言う、この人気企画を元に製作された映画です。
大手建設会社を定年退職した孝平と、専業主婦として家族に尽くしてきたちひろは、離婚を決意。お互いが別々の道を歩み始めたとき、新婚当初ちひろが３０年後の孝平に宛てて書いた手紙が、時を経て届けられる──。
妻に先立たれ娘と暮らす医師・静夫は、海外の医療小説の翻訳監修を求められ、翻訳家として活躍する麗子と出会う。新しい恋に臆病だった２人に勇気をくれたのは──。
青春時代にビートルズを謳歌し、今は魚屋を営む正彦と光江。口げんかは絶えずとも、仲のよい２人を病魔が襲う。手術を終えた光江が眠る病室には正彦が想いを込めて弾き語るギター。それは──。
この３つのエピソードをオムニバス風に描くのか、と思いきや、それぞれを巧妙に組み合わせ、あたかもカノン様式の音楽のように、響き、絡み、盛り上がりながらもクライマックスを迎える、と言う展開。
この脚本はよく出来ていると感心しました。
実話を元にするだけに、３組のカップルの描写は上手く出来ていますし、エピソードは感動的。
中盤以降は、感情を揺さぶられるシーンが幾つもありました。
出演している俳優も豪華です。
その中でも、中心となる孝平とちひろのカップルの孝平役には中村雅俊。かつての青春スターも定年になる年齢になったのだなぁ、と思います。
静夫役の井上順は、最近、映画ではあまり見かけませんがすごくいい。
雅彦役のイッセー尾形は上手すぎるのが欠点だったりする役者ですが、今回は、本業ではない歌を歌わされる役回り。ジャズシンガーの綾戸智恵は別格として、中村雅俊、井上順に戸田恵子と、歌手としてもプロの役者が顔を揃える中で、唯一、歌声を披露する役、と言うのは意外でしたが、この歌がいい味出しているのはさすがです。
また、本格的な映画出演は初めてという光江役の綾戸智恵の芝居を受け止め、ぴったり息のあったカップルになっているのもさすがだと思います。
ちひろを演じた原田美枝子、麗子役の戸田恵子もさすがはベテランという存在感。
気になったのは、主役にからむ脇の人物に魅力が感じられないこと。
特に物語の軸になる孝平・ちひろの夫婦が、それぞれ新しいパートナーにしようとする人物の掘り下げが欠けているのです。
原沙知絵が演じる建築ベンチャー企業の女性は、孝平が妻や家族を捨て、パートナーとするだけの魅力を兼ね備えているのでしょうか？また、彼女は孝平のどこに魅力を感じたのでしょうか？石黒賢扮するベストセラー作家も、ちひろのどこに惹かれたのかがわからないのです。
映画の元になった手紙は、素人が書いたものです。
だから、自分の心情や連れ合いの事は細かく書けても、第三者の事までは上手く描写出来ません。
だからこそ、映画にする際には、この辺り、製作者の方で膨らませ、人物の内面を掘り下げて、納得の出来るキャラクターを構築しないといけない。
この映画、その辺りの出来がいまひとつ。
カップルだけでエピソードが完結する、静夫と麗子、雅彦と光江のエピソードには破綻がないだけに、中心となる孝平とちひろのエピソードに物足りなさを覚えてしまったのが、画竜点睛を欠く感じで惜しいな、と思いました。
（５月１６日 ＭＯＶＩＸ本牧にて）
（作品データ）
■監督
深川栄洋
■出演
孝平 ・・・ 中村雅俊
ちひろ ・・・ 原田美枝子
静夫 ・・・ 井上順
麗子 ・・・ 戸田恵子
正彦 ・・・ イッセー尾形
光江 ・・・ 綾戸智恵
（その他のキャスト）
星野真理 内田朝陽 石田卓也 金澤美穂 佐藤慶
原沙知絵 石黒賢
■コピー
語り尽くせないほどの「ありがとう」
■Ｌｉｎｋ
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