「５０年目の零戦」
鳴海章
（１９９５年　中央公論社）

　これは、航空モノを得意とする鳴海章の小説です。

　昭和２０年８月――日本敗戦の際、戦力を温存する為に、十勝の秘密基地に隠された零戦・・・しかし、結局、戦闘飛行に出ることなく、２機の零戦は十勝平野の片隅で眠り続ける事になった。
　そして、それから５０年。
　様々な思いを胸に抱いた、男達の「零戦再生計画」が動き出す・・・

　ここに登場する男たちは、「此処は自分の居場所じゃない」と言う違和感を持ち続けています。
　それが、零戦と出会った事で、思わぬ方向へ人生が方向転換して行くのです。

　飛行機は、空を飛ぶから飛行機なのです。
　地下で朽ち果てて行くのは、本望ではないでしょう。
　だから、男たちは、零戦が再び舞い上がるように、ひたむきな努力を重ねます。
　そして、その中で知る訳です。
　自分も、この零戦同様、このまま朽ち果てて行っていい訳がないじゃないか、と・・・

　結局、この物語は、再生された零戦がエンジンを始動する、その直前で終わってしまいます。
　しかし、きちんと再生された零戦同様、自分の進むべき道を見出した男達の生き様がちゃんと描かれるので、これはこれでいいのでしょうね。

　航空小説の割には、飛行機が飛ぶ場面は殆どありませんが、それはそれでよし。
　久々に胸が熱くなる１冊でした。

[戻る]