「エリコ」

谷甲州
（１９９９　早川書房）

　「航空宇宙軍史」シリーズにて、ハードＳＦ作家としての印象の強い谷甲州が描く官能ＳＦ（？）・・・もとい、「人類の進化」を主題として描くハードＳＦ・・・のつもりが、やはりこうなってしまうのだから、小説と言うヤツは判らない。(^^;
　もっとも、クローン、遺伝子操作などのバイオテクノロジー、バーチャルリアリティなどのコンピューター技術など、しっかりとした考証に基づくハードＳＦならではの描写は健在。
　しかし、主人公の男から性転換した美しい娼婦、その相棒の男勝りの女丈夫、主人公のクローン肉体を持つ香港マフィアの頭目などなど、登場人物はどいつもこいつも強烈な個性の持ち主ばかり。
　そんな連中に引っ張られ、物語は息つく間もない程の急展開を見せて進行して行き・・・これは、作者も予想外の展開だったのではないでしょうか。
　もっとも、後半に至って、物語を完結させる為に作者がブレーキをかけたせいでしょうか、その勢いが失速してしまったように感じられたのは残念です。
　（中盤までは、先の見えない展開に、ドキドキするくらい面白かったのですが）
　また、広げた風呂敷をたたみ切れず、いくつかの伏線をブッチ切り、かつ、案外、小さくまとまってしまったのも残念でした。
　
　しかし、主人公を女性ではなく、女性に性転換した男性にした辺りは・・・やはり、ハードＳＦ作家・谷甲州として、”女性”を考証し切れず、”女性”を描き切る自信がなかったからかなぁ、とか邪推してしまいました。(^^;

　ま、なにはともあれ、これで、ＳＦの３大テーマである、「宇宙の構造」と「未来史」と「人類の進化」を描いたことになる谷甲州の今後の作品に期待したいと思います。(^^)

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