これは、農地上で太陽光発電を行う営農型太陽光発電農場（ソーラーシェアリングファーム）を営む福島の農家と若者たちの挑戦と成長を追ったドキュメンタリー。
　監督は「原発をとめた裁判長　そして原発をとめる農家たち」の小原浩靖。

　２０１１年の福島第一原子力発電所事故で放たれた放射性物質により廃業に追い込まれた福島県二本松市の有機農業事業者・近藤恵は、畑の上にソーラーパネルを並べて太陽光発電をおこなうソーラーシェアリングに農業復活の道を見出し、２０２１年に試験農場を完成させた。
　近藤は、農家を目指す若者２人と共に、ぶどうを植え、小麦とエゴマを作り、更にパネルの下に牛を放牧するなどして、ソーラーシェアリングファームの可能性を追い求めるのだが……

　営農型太陽光発電農場（ソーラーシェアリングファーム）とは、畑や水田の上にソーラーパネルを並べて、農業と並行して太陽光発電を行う事を言います。
　畑の上にパネルを並べるとは言え、パネルの支柱はあぜ道の上に作られて、畑にはトラクターなど農機具を入れられますし、パネルはかなり傾けられ、日差しを遮る事は少なく、農作物への影響は少なく、ほとんど変わらぬ収穫を得る事が出来ると言います。
　これならば、山や森を切り開く事もなく、元々田畑は日当たりのいい場所を選んで作られているのだから、発電量も見込めます。
　食糧生産とエネルギー算出を同時に行えると言う事で、欧州中心に普及の進むソーラーシェアリングですが、日本でこれに注目したのが福島の農家だった、と言うのには理由があります。
　福島では未だ農作物には放射線量測定が義務付けられ、万が一にも検出されれば出荷は出来ません。その一方で、ソーラーパネルが生み出す電気に放射線の影響はなく、安定して現金収入が見込めるのです。
　近藤恵は、東日本震災以降、放射線が検出される度に、自分や仲間が丹精して育てた作物を幾度も焼却処分したと言います……そんな悔しさと、電力会社に対する不信感が、食料とエネルギーを自給自足する、ソーラーシェアリングファームの育成に向かわせたのでしょう。

　映画は、そんな近藤のソーラーシェアリングファームと、そこで農業に勤しむ若者の姿を数年に渡って追いかけます。
　取組みとしては可能性を感じるものですし、農作業に真摯に打ち込む若者の健気さも胸を打つものがあります。
　ただ、映画はそうした「日なた」の面だけではなく、「影」の面も映し出しています……一部のソーラー発電事業者が、税金を安く抑えるべく、ソーラー発電所下に形ばかりの野菜を植えて「ソーラーシェアリングだ」と主張する脱税行為があり、それを防止するために、農水省は、農地として期待される収穫量から２０％を下回ったら農地認定を取り消す、と言う措置を採っているのです――ソーラーシェアリングどころか、単純な不作や、台風などの災害一発で収穫量が激減するのが農業であり、そこで「一度でも２０％を下回ったら農地認定取り消し」と言う条件はあまりに厳しく、これが新規参入を拒む障壁となっているのです。
　（ソーラーシェアリングを推奨しようと言う欧州の流れとは対照的です）

　そして、地球環境問題への取り組みが「リベラル的」と見なされ、米国・トランプ大統領を始めとして、脱炭素と再生可能エネルギーにブレーキをかけようとする政治の動きが、これからのこうした取り組みへの更なる逆風になるのではないでしょうか。
　それでも、政治家などより、日々、太陽と土に向き合っている農家の方が、まさに「環境」とその変化を体感しているでしょうし、そんな彼らが選んだ、その可能性を信じてみたいと思います。
　

　（２０２５年　１０月１２日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督・脚本・企画・製作・撮影・編集

小原浩靖

　■出演

近藤恵　　樋口英明　　大島堅一

ナレーション　　・・・　白崎映美

　■コピー

たべもの、電気、笑顔も自給。

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