水の中で深呼吸

　これは、「猿楽町で会いましょう」の石川瑠華が、初めての恋に揺れ動く女子高校生を演じる青春ドラマ。
　監督は、短編映画「スイート」で、注目された安井祥二。共演は「九十歳。何がめでたい」の中島瑠菜、「ナミビアの砂漠」の倉田萌衣。

　水泳部の１年生、葵は気になる同学年女子の日菜が先輩に嫌がらせを受けているのに激高して喧嘩を売り、２年生とのリレー対決をする事になってしまう。だが、実力不足の１年チームは圧倒的に不利な状況で、葵は同級生から批判され、日菜も困らせる羽目になってしまう。
　そんな葵を気遣う幼馴染で１年先輩の昌樹はモテモテ男で、告白してくる女子に見境なく手を出していたが、実は本命は葵だった――ただ、女の子の方が気になる葵にとって、そんな昌樹はちょっと煩わしい。
　葵は、１年生チームでリレーの練習を重ねながら、少しずつ自分の心と向き合い始めて……

　この映画、予告編からは、夏とプールと中性的な少女の初恋への戸惑いを描くような感じに見え、自分の好きなルイ・グンメイの「藍色夏恋」の日本版のような内容を期待していたのですが……内容はちょっと違って、少女たちのひと夏の青春群像劇、と言う感じの仕上がり。
　それでも、奥手の少女が初めての恋に戸惑い、しかも、その想いが同性に向かっている事に困惑するのを繊細に描いている辺りは、確かに「藍色夏恋」に通じるものでしたが――ただ、ヒロインの葵を演じるのが石川留華で、彼女、撮影時既に２７歳であり、役柄上、すっぴんで１６歳を演じるのはちょっと苦しい感じがしました……確かに難しい演技を求められる役であるし、より若い俳優らと演じる高校生役にも違和感少なく演じてはいるのですが……
　あと、気になったのは、季節は夏、舞台は大半がプールで、競泳水着の女子高生が繰り広げる物語なのに、画面が妙に暗く、精彩を欠く映像にはちょっとがっかり……

　それでも、青春映画としては決して悪くありません。水泳部の対立があっさり解消したのには拍子抜けもしましたが、昌樹の不実にも落とし前がつけられます。
　そして、「水の中は苦しいけれど、プールから上がっても楽じゃない」と、水底でひとりため息を吐き出していた葵が、水面に浮かんで上を向けるようになった……そこに寄り添ってくれる人がいるのですから、それ以上今何を望むのか。そんなひと夏のささやかな変化が愛おしく思える、これはそんな映画でした。
　

　（２０２５年　８月２９日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

安井祥二

　■出演

　朝比奈葵　・・・　石川瑠華

　安藤昌樹　・・・　八条院蔵人

　小坂日菜　・・・　中島瑠菜

（その他のキャスト）
　倉田萌衣　　佐々木悠華　　松宮倫　　伊藤亜里子　　川瀬知佐子　　山本杏　　森川千滉　　倉林希和里
　小西有也　　野島透也　　池上秀治　　しゅはまはるみ

　■コピー

ずっと一緒に笑っていたい。ただ、それだけ。

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