キャンドルスティック
ＣＡＮＤＬＥＳＴＩＣＫ

　これは、日本・台湾共同製作、阿部寛主演で描くマネーサスペンス。
　原作は川村徹彦の「損切り：ＦＸシミュレーション・サクセス・ストーリー」で、タイトルの「キャンドルスティック」とは、金融商品の価格変動を視覚的に表した価格チャートの形式を指しています。

　ある企業買収に関った際、罠に嵌められ違法な株価操作の罪で刑務所に収監されていた天才プログラマーの野原は、独特の数学センスを持ち、ＦＸ（外国為替証拠金取引）取引を学ぶ杏子と出会う。
　一方、かつて野原を使って、企業買収を成功させ、台湾で大企業のトップの座を手に入れたリンネは、再び野原の技術を利用し、今度はＦＸ取引で巨額の利益を得ようと企む――その計画を仕掛けるのは、日本に新天皇が誕生し、元号が変わるのに合わせて金融機関がシステム更新を行う、その時を狙う。
　その計画の発動は２０１９年５月１日。杏子は野原に自らと同じ共感覚を感じ取り、計画をサポートすることを決意するが……

　この映画の原作本は「物語仕立てのＦＸ入門+自己啓発本」と言う内容だそうで、それをＦＸを巡るマネーゲームで一攫千金を狙う中にコン・ゲームを仕込んだ物語に仕立て直した、と言う事になるようです。
　ＦＸについては、悲喜様々なエピソードがあり、事実に基づく群像劇なり、金融業界の裏に蠢く魑魅魍魎を描く暴露的な物語など、色々出来そうに思えたのですが、本作の物語としては、過去の因縁話に紐着く、一発逆的のコンゲーム、と言う、金額の大きさの割には小さな話になってしまったのがちょっと残念。
　また、最近の映画としては９３分と尺が短めなのはいいのですが、思い切った省略話法と、ハードボイルドを意識した寡黙な語り口のせいで、人物関係が判り難いし、主人公・野原と、人妻の杏子を結び付ける「共感覚」の設定がまるで活かせていないのにも物足りなさを憶えます。その一方で、やけに尺を取っている移民児童支援施設の扱いもどうにも中途半端に思えてなりません。
　クライマックスも、余計とも思えるタイムサスペンスを盛り込んだせいで、肝心のコンゲームの方の盛り上がりに欠けるなど、どうにも物語に乗れなかった感じでした。

　主演の阿部寛は、いつも通りであるのに、今回、七緒が演じる杏子は、コミュ障気味、と言う事で、眼鏡をかけて無口で長身を縮めてオドオドしている様子がなかなか新鮮でしたが……中盤以降、眼鏡を外したらいつもの七緒に戻ってしまったのはちょっと勿体なかったような……

　映画は、台湾との共同製作と言う事で、国際色豊か……と言うより、台湾が関わると邦画もこうも変わるものか、と思ったりもしました。
　この舞台で様になる物語があれば、もっと面白くなったように思うのですが……
　

　（２０２５年　７月　６日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

米倉強太

　■出演

　野原健太郎　・・・　阿部寛

　杏子　・・・　菜々緒

　ファラー　・・・　サヘル・ローズ

　リンネ　・・・　アリッサ・チア

（その他のキャスト）
　津田健次郎　　リン・ボーホン　　YOUNG DAIS　　マフティ・ホセイン・シルディ
　デイヴィッド・リッジス　　タン・ヨンシュイ

　■コピー

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