これは、鹿児島を舞台に、旧車（オールドカー）を通じて親子孫・３世代の思いが繋がる様子を描くヒューマンドラマ。お笑いタレント、あべこうじによる初監督作。
　主演は哀川翔。他キャストは、鈴木砂羽、泉ピン子とご当地映画としてはなかなか豪華なものとなっています。

　鹿児島県霧島市で、コンビニ店を営む山下源太は無類のクルマ好き。週末は、旧車イベントに参加、朝まで愛車のハコスカ（三代目スカイライン）を走らせたりもして、妻・和美に睨まれたりしていた。
　そんなある日、源太の父・源五郎が倒れ、妻の千鶴絵に「てんとうむしが届いたら、連れて行くから」と言い残して他界する、
　源五郎の死後、家族のすれ違いが続く中で、源太の馴染のクルマ屋からあるものが届いて……

　この映画ですが、なかなか評価が難しいものがあります――親子孫・３世代の家族の再構築を、クルマを軸に描く、と言う物語は、いささかベタだけど、決して悪くはありません。ご当地映画ならではの名所を背景に、往年の名車が走る絵も魅力的ではあります。
　しかし、肝心のクルマ、この選定がどうにも疑問……と言うか、いささか趣味が悪く思えました。
　源太のハコスカ、ＧＴ改Ｌ２８搭載まではよいとしても、前後タイヤがフェンダーからはみ出した整備不良車……作中で「１５００万円になる」とか言ってるのだけど、到底そうは見えません。（そうなるとしたら、純正保持か、Ｒレプリカでないと……）
　他にも、旧車イベントの常連でもある源太が「てんとうむし」にピンと来ないとか、「安いから」とビートに乗ってる若者とか、こちらも、そこそこクルマ好きであるだけに、「？」となる描写が多くて、どうにも入り込めなかったのが正直な所です。

　物語が最後にたどり着く「クルマは人生を共にするパートナー」と言う境地を見せるなら、娘の彼氏が乗ってるのを現行型のコペンとし、３０年前に結婚した源太は、その当時に新車だったＲ３４（１０代目スカイライン）で、和美が結婚前、学生時代に乗っていたのがＡＥ８６トレノ。源五郎と千鶴絵が乗っていたのが、さらに一世代前、１９６４年式スバル３６０とし、それぞれの青春時代を代表するようなクルマとすべきではなかったか、と思ってしまいました。
　確かに、撮影に協力した自動車クラブやクルマ屋の事情や、借りられたクルマの都合もあるのでしょうけど、クルマに重要な役割を担わせる以上は、そこはこだわって欲しかった所です。
　今の出来では、クルマに詳しくない人は興味を示さず、詳しい人ほど映画に入り込めない、残念なものになってしまっていると思います。
　

　（２０２５年　５月２３日　シネマジャック＆ベティにて）

（作品データ）

　■監督

あべこうじ

　■出演

　山下源太　・・・　哀川翔
　山下和美　・・・　鈴木砂羽

　山下千鶴絵　・・・　泉ピン子
　山下源五郎　・・・　西岡徳馬

（その他のキャスト）
　新原泰佑　　暁月ななみ　　片山右京　　天野浩成 池田倫太朗
　中林登生（ENJIN）　　ひょっこりはん　　熊田曜子

　■コピー

［戻る］