片思い世界

　これは、「花束みたいな恋をした」の土井裕泰監督と脚本家の坂元裕二が再び組み、広瀬すず、杉咲花、清原果耶を主演に迎えて描く物語。

　東京の片隅で、美咲、優花、さくらの３人は、古い一軒家で一緒に暮らしている。３人は家族ではないが、一つ屋根の下で１２年を過ごし、強い絆で結ばれていた。
　それでも、彼女たちには決して伝えられない思いがあって……

　この映画、旬の若手女優３人を揃え、てっきりラブロマンスを描くものと思わせて――こう来るか……
　なるほど、これは「ネタバレ厳禁」だ、と納得――でも、それを書かないと感想にならないので書いてしまう事にします。

　これ、幽霊譚なんです。ただし、全くホラー要素のない、怖くない幽霊譚。
　映画は冒頭から、かなり違和感を感じさせる見せ方をしていて、「これは何だ？」と訝しんでいたのですが、それが明らかになった時には、さすがに「やられた」と思いました。
　ただ、本作の特色は、この仕掛けを冒頭で明かしてしまう事……これが「片思い世界」と言うタイトルにも繋がる本作の骨格を成すもので、本作は、死者の視点から、現世を見る物語であり、現世に思いを残している死者が、そのもどかしさに地団太を踏み、無念さに涙するものとなるのです。
　前半、幽霊である彼女らが、幽霊もののホラー映画を観て怖がると言うコミカルなシーンを伏線に、後になって「幽霊になる気持ちが判る」と言う展開になるのは巧い、と思いましたし、クライマックスを「聴かせる」ために、音楽使用を控えて見せる、と言う抑制も効いています。

　「花束みたいな恋をした」では、坂元裕二脚本の詰めの甘さが気になってしまったのですが、ファンタジー要素の強い本作では、細かなリアリティを求めても仕方ない、と割り切れるせいか、すんなりと世界観を呑み込めましたし、クライマックスでは感動もしたし、最後のオチも悪いものでありませんでした。
　然しながら、主役級を３人並べたせいもあって、エピソードは盛り込み過ぎの感があって、放り出したような部分も一部にあり、ここは上手く整理をつけて欲しかった所です。また、クライマックスとなるべき舞台に向けての集約度合いも弱い……それでも、主演３人の魅力に助けられた感はあるものの、全体としては、なかなかよく出来ていると思いました。
　これは、土井裕泰監督を見直しました。
　

　（２０２５年　４月　４日　ＴＯＨＯシネマズ海老名にて）

（作品データ）

　■監督

土井裕泰

　■出演

　相楽美咲　・・・　広瀬すず
　片石優花　・・・　杉咲花
　阿澄さくら　・・・　清原果耶

　高杉典真　・・・　横浜流星

（その他のキャスト）
　小野花梨　　伊島空　　moonriders　　田口トモロヲ　西田尚美

　■コピー

この声、とどけ

［戻る］