これは、辻村深月による同題のベストセラー小説を、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔と「先生の白い嘘」の奈緒の主演で映画化した恋愛サスペンス。
　監督は「東京喰種 トーキョーグール」の萩原健太郎。

　青年実業家の西澤架は恋人に振られて、婚活を始める。数十人に会って、婚活に疲れた頃、控えめでおっとりとした坂庭真実と出会って交際を始めるが、１年を経ても、まだ結婚に踏み切れずにいた。
　そんなある日、架は真実からストーカーの存在を告白され、怯える彼女を守る、と言う名目で同居を開始、世間体もあって漸く婚約するのだった。
　そして、２人は結婚の準備を進めるのだが、真実が寿退社をした翌日、彼女は突然架の前から姿を消してしまい……

　これは、結婚に臨む男女の駆け引きを描いた物語。
　ストーカー騒動とか、突然の失踪とか、揺さぶりはかけて来るけれど、結果としては、架と真実と言うふたりの間……と言うか、その表裏が織り成す心理サスペンス、となっています。その中に、現代人ならではの傷つきやすい自己や、高望みしがちな価値観、さらに過度な世間体への配慮――これは、同時に己の過剰な装飾にも繋がる――を盛り込んだ、豊かなドラマを描こうとしている……のは判るのですが、こちらはやや不発気味。原作はこの辺りが充実しているようなのですが、映画では、どうにも中途半端に終わったような感じです。
　また、結婚を前に、傷つき逃げ出した真実が農村での自然と素朴な人々との触れ合いで癒され、逞しく成長する、と言う展開もいささか陳腐に感じました。

　架を演じる藤ヶ谷太輔は、これまでも“巻き込まれ型”の主人公を演じる事が多かったのですが、本作でも振り回される主人公を好演。その一方で、真実を演じる奈緒は、これは期待通りの底が見えないキャラクターで、正に映画を一身に支える感じです。

　そんな映画ですが、観終わってみれば、これは意外にも真っ当なメロドラマ。結婚を前にして男性側が翻弄されるのが現代っぽくありますが、ちゃんと恋愛ドラマとして決着したのがむしろ物足りなく思えるほど――もっとも、原作譲りの物語の力で感動はしましたが……　
　

　（２０２４年　１０月　２日　イオンシネマ座間にて）

（作品データ）

　■監督

萩原健太郎

　■出演

　西澤架　・・・　藤ヶ谷太輔

　坂庭真実　・・・　奈緒

　高橋耕太郎　・・・　倉悠貴

（その他のキャスト）
　桜庭ななみ　　菊池亜希子　　阿南健治　　宮崎美子　　西田尚美　　前田美波里

　■コピー

マッチングアプリから始まった２人
だが、彼女は突然消えた――

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