とりつくしま

　これは、ＥＮＢＵゼミナール・シネマプロジェクト第１１弾作品として、東直子の同題小説を娘の東かほり監督が映画化したものとなります。
　出演は小泉今日子。

　人生が終わってしまった人々の前に“とりつくしま係”が現れ、この世に未練があるなら、モノに憑いて大切な人の傍で過ごすことができると告げる。
　お気に入りのマグカップに憑いて夫を見守る妻、青いジャングルジムに憑いてみんなと遊びたい男の子。孫にあげたカメラに憑いて、孫の見るものを見ようとする祖母、ピッチャーの息子を見守るため、野球の試合で使うロージンになる母……こうして人生の本当の最後に、モノとなって大切な人の傍で時間を過ごしていく……

　これはなんとも奇妙な雰囲気の映画でした。
　現世に未練のある霊魂を、何かものに宿らせる、と言う事は、言わば、幽霊と言うか地縛霊を作っているようなものであり、これは立派な幽霊譚なのです。そんなホラーにもなり兼ねない物語を、この映画は、視点を死者、と言うか霊魂の側に置くことで、ふんわりと、何処かとぼけたような味わいを含ませつつ描いて行きます。

　どうやら、「ホラーを書いて欲しい」と望まれた母のオムニバス小説を、娘が仕立て直したと言う事のようで、引き返せない人生の通過点の先で見つめる人の心の機微を描く、全然怖くない幽霊譚であり、なかなか面白い映画でした。　
　

　（２０２４年　９月１９日　新宿武蔵野館にて）

（作品データ）

　■監督・脚本・宣伝デザイン

東かほり

　■出演

　とりつくしま係　・・・　小泉今日子

（その他のキャスト）
　橋本つむぎ　　櫛島想史　　小川未祐　　楠田悠人　　磯西真喜　　柴田義之　　安宅陽子　　志村魁　　中澤梓佐　　石井心寧
　安光隆太郎　　新谷ゆづみ　　鈴木喜明　　千賀由紀子　　佐藤有里子　　宇乃うめの　　山下航平　　山田結愛
　村田凪　　田名瀬偉年　　富士たくや　　富井寧音　　松浦祐子　　大槻圭紀　　平松克美　　熊崎踊花　　大古知遣

　■コピー

もう一度、
この世を見つめることができるとしたら

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