ぼくのお日さま

　これは、「僕はイエス様が嫌い」の奥山大史監督による長編第２作にして商業映画デビュー作で、第７７回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品作となります。
　出演はいずれも映画初出演の越山敬達、中西希亜良。２人とも４歳の頃からフィギュアスケートを習っているそうですが、中西希亜良は本作が演技初挑戦。そんな２人のコーチ役を演じる池松壮亮ですが、氷上に立つその姿は、ちゃんと達人に見えるのだから大したものです。

　吃音をもつ小学生のタクヤは、スポーツ少年団に所属しているけれど、野球にもホッケーにも身が入らない。そんなタクヤだが、冬のある日、フィギュアスケートを練習する少女さくらの姿に心を奪われてしまう。
　見様見真似で、ホッケー靴のままフィギュアのステップを踏むタクヤを見かねた元フィギュアスケート選手でさくらのコーチでもある荒川は、スケート靴をタクヤに貸し、彼の練習につきあうことに。やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることになるが……

　奥山大史監督は、「僕はイエス様が嫌い」以降、ＴＶやＣＭで活躍しており、映画は５年ぶりの２作目。しかし、これが見事な映画となっており、奥山監督はやはり“映画の人”だと思わせます……スタンダードサイズの映像、写り過ぎないフィルムの質感――それは、デジタルで再現されたものではあるのですが、そこにはやはり懐かしい匂いがあり、敢えて時代性をぼやかした本作の雰囲気と見事に調和しています。

　物語の方も、ちょっと古びた要素を盛り込んでおり、フィギュアスケートを「女子のスポーツ」と言い、同性愛者に対する偏見などは、現在の物語ではありえないものでしょう。
　そんな要素を盛り込んで描かれるのは、”片想い”でしょうか……タクヤとさくらと荒川、すれ違う３人の想いが、その関係を美しくまとめて行く、と言うのはいささか皮肉な展開とも思えますが、人間関係とはそもそもがそんなものかも知れません。

　３人の関係は、荒川の想いをさくらが知ってしまった事で脆くも崩れてしまいます……さくらが荒川に吐き捨てた言葉は、少女の純真さ故の残酷さでもあるし、少女は、その残酷さが自身に跳ね返る事も知りません。この描写と展開には、それまでの美しい関係性があった故に、確かに心揺さぶられるものがあります。
　ただ、そこまでさくらに嫌悪感を抱かせる為に、荒川をゲイと言う設定にしたのは、疑問を覚えなくもないのですが……

　映画ラストは、「言いたいこと、本当の事が言えない」タクヤが、言葉を口に出す前に終わりますが、これも様々な可能性を考えさせられる、余韻を残した見事なエンディングと思います。　
　

　（２０２４年　９月１８日　ＴＯＨＯシネマズららぽーと横浜にて）

（作品データ）

　■監督・脚本・撮影・編集

奥山大史

　■出演

　タクヤ　・・・　越山敬達

　さくら　・・・　中西希亜良

　荒川　・・・　池松壮亮

（その他のキャスト）
　若葉竜也　　山田真歩　　潤浩

　■コピー

［戻る］