ＴＨＥ
ＭＯＯＮ

　これは、韓国のスター、ソル・ギョング＆ド・ギョンス＆キム・ヒエ共演で贈るＳＦスペクタクル大作。
　監督は「神と共に」二部作を手掛けたキム・ヨンファ。

　有人月探査計画の失敗で、国際宇宙機構から除名されてから５年、韓国は、自力で再び有人月探査の実施に漕ぎつけた。
　３名の宇宙飛行士を乗せたロケット“ウリ号”を打ち上げ、月周回軌道への進入直前、太陽風の影響によって地球との通信が途絶。修理のため船外作業を行っていたクルー２人が事故で命を落としてしまう。ただ一人残された宇宙飛行士ソヌを救い、ミッションを遂行させるべく、５年前の事故の責任を取って組織を去った当時の責任者ジェグクが呼び戻される。
　ジェグクのサポートもあり、ソヌは月面への着陸を無事成功させるも、新たな危機がソヌに襲い掛かり……

　韓国の宇宙開発事業の規模は小さく、自力での人工衛星打ち上げも２０１３年になってからで、宇宙飛行士も輩出していません――そんな韓国が、独自に有人月探査計画を遂行、と言うだけで、これは完全にＳＦと判ります。
　ただ、この映画の完成度はかなり高い……宇宙船のリアリティもまずまず（ちょっと船内が広すぎるように思う程度）で、ＶＦＸのレベルも非常に高く、ハリウッドの宇宙もの映画にも引けは取りません。
　物語は、３人乗りの月探査船が太陽風と流星群に巻き込まれ、２名の宇宙飛行士を失う所に始まり、次々に襲い来る危機をクリアしながら、探査任務を遂行する……と言うもので、「２００１年宇宙の旅」、「オデッセイ」、「ゼロ・グラビディ」など、宇宙を舞台としたパニック・サスペンスもの映画で観たようなシーンとシチュエイションが散見されるのですが、それらも決して真似事ではなく、時にオリジナルを超えるようなものにしているのは大したものです。

　気になったのは、ド・ギョンス演じるソヌが当初素人丸出しで、元海兵隊特殊部隊員と言う設定なのに、危機でパニック状態になり、いきなり外部へのハッチを開けようとするわ、宇宙服なしで船外に出ようとするわで、なんだコイツ？と白けてしまいました。その後も、すぐヘルメットをとっては窒息したり、と危機管理の全く出来ていないのには呆れます……その癖、中盤以降は、別人のよう冷静にミッションを遂行するのだから……
　キャストでよかったのは、ジェグクの助手のカン・ハンビョルを演じたホン・スンヒ。ちょっと岸井ゆきのを思わせるファニーフェイスの彼女がジェグクの後をくっついて回るのもかわいいし、中盤以降、思わぬ活躍を見せるのです――最後の救出劇など、功労者はハンビョルではないか、と思ったり……
　あと、次々に起きるトラブル、そして問題が、あまりにくどく、描写も冗長で、正直ダレます……また、ホラー映画ではないのだから、徐々に不安を盛り上げていって、そしてトラブル発生、と言う描写も勘弁して欲しい所です。
　また、終盤、どうしても感動方向に持って行くのが韓国映画の習性ですが、本作もクライマックスでそうなります……ただ、緊迫の救出劇を前に、わざわざ演説シーンなど入れなくても、と思ってしまいました。

　確かに、宇宙ものとして、これまでの韓国映画の水準を超えたリアルな描写を実現しているものの、内容がいつもの韓国映画……特に、冗長なパニック描写と、テンポの悪い展開、これはどうにかならないものか、と残念に思いました。　
　

　（２０２４年　７月１０日　イオンシネマ座間にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

キム・ヨンファ

　■出演

　ファン・ソヌ　・・・　ド・ギョンス

　キム・ジェグク　・・・　ソル・ギョング

　ユン・ムニョン　・・・　キム・ヒエ

　カン・ハンビョル　・・・　ホン・スンヒ

　■コピー

たった一人、月から帰還せよ。

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