あまろっく

　これは、兵庫県尼崎市を舞台に、年齢も性格も異なる“ツギハギだらけ”の家族の在り方を描く人生賛歌。
　主演は江口のりこ。共演は中条あやみに笑福亭鶴瓶と関西出身者で固めています。

　近松優子は兵庫県尼崎出身。“人生に起こることはなんでも楽しまな”がポリシーの能天気な楽天家でぐうたらな父に反発し、大学卒業後、大企業でバリバリ働いてきたが、パワハラとも言える猛烈さが災いし、リストラで会社をクビになってしまう。
　鉄工所を営む尼崎の実家に戻った優子は、糸が切れたようにダラダラとニートのような生活を続け、そして８年……母を亡くし、独り身の父が、ある日、再婚する、と告げる。その父が再婚相手として家に連れて来たのは、まだ二十歳だと言う美女・早希だった。
　早希は、若い癖に世話焼きで、毎日食事の支度をするだけでなく、優子に縁談を持ち込んだりもする。
　だがそんなにぎやかな暮らしは、父の急死で突然終わってしまった……

　“あまろっく”とは、海抜ゼロメートル地帯の尼崎市を水害から守るために作られた尼崎閘門――通称、尼ロックの事。
　そんな尼ロックに守られた尼崎で「オレは我が家の尼ロックや」が口癖のぐうたらな父親と、才走る余りに人の心の機微が判らない娘、そこに飛び込んで来た、あり得ないくらい若く美しい後妻、と言う設定の人情コメディ――還暦過ぎたおっさんのもとに中条あやみが嫁としてやって来ると言う。中年男性にとっては、夢としか思えない設定に惹かれて観る事にした次第です。
　予告編からは、そんな設定を活かした関西風ドタバタコメディを予測していたのですが……意外な事に、鶴瓶演じる父は早々に退場してしまい、映画は、そこから回想シーンを織り交ぜながら、父と言う要を失った家族の再生を描く人間ドラマとなって行きます。
　これはなかなか見応えのあるドラマで、時にホロリともさせつつ、先の読めない展開でハラハラさせた挙句に、急転直下のハッピーエンドを迎える、と言う力技……これは思っていた以上に見応えがありました。

　惜しいのは、タイトルにもなっている尼ロックを始め、尼崎ならではのロケーションの活かし方がイマイチに感じられた所……ここはもう一工夫、もしくはもうひとひねり欲しかった所です。
　キャストとしては、やはり江口のりこがいい。久々の映画主演で、これは個性を巧く活かした作品になっていると思います。あと、父の若い頃を、尼崎出身の松尾諭が演じているのですが、これがちゃんと鶴瓶の若い頃に見えるのだから、これは、大したものだと思います。
　ただ、中条あやみが惜しい……美人なのに文句はないし、実は大阪出身なだけに関西弁もネイティブで違和感はないのですが、さすがに２０歳には見えないし、この役には上品で、おっとりしている感じ……ここは、江口のりこの圧力にも負けない、はっちゃけた若手を起用した方がよかったのではないでしょうか？　
　

　（２０２４年　４月２９日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

中村和宏

　■出演

近松優子　・・・　江口のりこ

近松早希　・・・　中条あやみ

近松竜太郎　　　　　　 ・・・　笑福亭鶴瓶
近松竜太郎（若い頃）　・・・　松尾諭

（その他のキャスト）
　中林大樹　　駿河太郎　　紅壱子　　久保田磨希　　浜村淳
　後野夏陽　　朝田淳弥　　佐川満男　　高畑淳子

　■コピー

お父ちゃんは再婚します？

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