アイアンクロー

　これは、１９８０年代のプロレス界で、その名を知られたフォン・エリック・ファミリーの栄光と悲劇を描く伝記映画。
　監督は、「マーサ、あるいはマーシー・メイ」のショーン・ダーキン。

　手で相手の顔を鷲掴みにする“アイアンクロー＝鉄の爪”を得意技とする“悪役（ヒール）”として人気だったプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックは、遂に手が届かなかった世界チャンピオンの夢を、次男のケビン、三男デビッド、四男ケリー、末っ子のマイクらに託すべくプロレス英才教育を施した。
　兄弟は絶対的な権力者である父の教えに従いプロレスの道に進み、デビッドは世界ヘビー級王座戦へ指名を受ける。しかし、デビッドは日本での遠征中に急死。その死を皮切りにフォン・エリック家は次々と悲劇に見舞われ、いつしか“呪われた一家”と呼ばれるようになって……

　これもまた“悪しき男らしさ”が生んだ悲劇を描く映画と言えるでしょう。
　父親が果たせなかった夢を息子に託す、まるで「巨人の星」のような物語は、かつてなら美談にもなり得たものの、最早、そんな時代ではない、と言う事でしょうか……

　そうした観点から描かれる父親像は、決して立派なものでも、筋の通ったものでもありません。自分の思うように独断で物事を進める癖に、いざ問題が起きると、息子たちのせいにして、自力での解決を求めると言う、何処かの政治家のような描写を見せられては、これもまた時代を反映した“悪しき男らしさ”の姿だろう、と思ってしまいます。
　しかし、それでも主人公であるケヴィンが、どれほど父親に理不尽な目に遭わされても、家族が好きだ、共にいたい、と言うのには、ＤＶと言う問題の深刻さを感じさせられます。
　そして、劇中では５人兄弟（長男は幼い頃に事故死）と描かれるフォン・エリック・ファミリーの子供たちは現実には６人兄弟であり、更なる不幸があって、さすがに映画で描けなかったとあっては……最早、言葉もありません。

　そんな兄弟の次男、ケヴィンを演じたのは、ザック・エフロン。青春もの映画で爽やか青年を演じていた彼が思いっきりビルドアップして、筋骨隆々のレスラーを演じるのだから、これは見事な役作りだと思います。
　また、ケヴィンの妻となるパムを演じるリリー・ジェームズは、快活なテキサス娘を演じながらも、相変わらずの上品な美貌で、やはり目を惹く存在。

　また、コダックの１６mmフィルムで撮影された本作は、２１世紀の映画でありながら、まるでかつてのアメリカン・ニューシネマのような映像世界を作り出しています。
　当時の再現にも抜かりなく、これは見応えのある映画でした。　
　

　（２０２４年　４月　７日　Ｋｉｎｏシネマ横浜みなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督・脚本

ショーン・ダーキン

　■出演

ケビン・エリック　・・・　ザック・エフロン

パム　・・・　リリー・ジェームズ

フリッツ・フォン・エリック　・・・　ホルト・マッキャラニー

（その他のキャスト）
　ジェレミー・アレン・ホワイト　　ハリス・ディキンソン　　モーラ・ティアニー　　スタンリー・シモンズ

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