これは、コロナ禍の最中、アメリカの金融市場で起こった実話をまとめたベン・メズリックのノンフィクションに基づき作られた映画。
　監督は、「クルエラ」のクレイグ・ギレスピー。主演はポール・ダノ。

　コロナ禍の２０２０年、証券会社に勤めるキース・ギルは、全財産の５万ドルを、ゲームストップの株式に注ぎ込んでいた。ゲームストップは、実店舗に拘ってゲームソフト売買している会社で、コロナ禍の影響で業績が低迷、倒産間近と見なされていたが、それはゲームストップ株を空売りして巨額の利益を得る、ヘッジファンドのターゲットにされていたせいだ、とキースは見ていたのだ。
　キースは、“ローリング・キティ”という名で動画を配信。この株が著しく過小評価されているとネットで広く市民に訴えると、その主張に共感した大勢の個人投資家がゲームストップ株を買い始め、ヘッジファンドの空売りと相まって同社株は乱高下するようになる――そして、２０２１年初頭、ゲームストップ株が大暴騰し、同社の株価下げに賭けていたヘッジファンドが巨額の損害を被る事態を引き起こす……

　この映画、キースの大儲け――キースが５万ドルで買ったゲームストップ株は、一時、４７００万ドルになったのです！――ではなく、低金利社会で、株式で慎ましく資産を増やそうと言う市民と、巨額の空虚なカネが飛び交うウォール街の大物たちを対峙させる構図が印象的……キースが「１日で１００万ドルの資産が増えた」と呆然と妻に告げ、同じ日には、ヘッジファンドは「１日で１０億ドルが消えた」と頭を抱える、と言う描写には「痛快」と感じる人も多いでしょう。
　ただ、問題は、この映画、それなりの金融知識を必要とします……「空売り」とはどう言うものなのか、映画内ではろくに説明さえしませんし、個人投資家が少額の株を買う一方で、何で投資家が1日で１０億ドルを損するのか、ヘッジファンドの仕組みを理解していないと、なぜそうなるか判らないのではないでしょうか？

　僅か数年前の出来事ですし、その多くがネットを介しての取引きや、コミュニケーションに基づくものなので、今風のポップな演出で描くのも出来たでしょうが、映画は、意外にも派手な演出を抑えた理知的な仕上がりとなっています。
　それ故に、また、多くの人々を並行して描く、群像劇的な内容のせいもあって、テンポが悪い、と想う人もいるかも知れません。
　しかも、最後は決して痛快なものと描かず、これは決してサクセスストーリーではありません――まぁ、そこにきっちり決着をつけられる程には、時間が経っていない、と言う事でもあるし、決着のつく事でもありません。最後、映画を現実に着地させたのは、そうした事でもあるのだろう、と理解しました。
　ただ、この内容をきちんとエンターテイメントに出来る、と言うのは、さすがはアメリカ映画と言う感じです。
　

　（２０２４年　２月　３日　Ｋｉｎｏシネマみなとみらいにて）

（作品データ）

　■監督

クレイグ・ギレスビー

　■出演

キース・ギル　・・・　ポール・ダノ

キャロライン・ギル　・・・　シャイリーン・ウッドリー

（その他のキャスト）
　ピート・デヴィッドソン　　ヴィンセント・ドノフリオ　　アメリカ・フェレ―ラ　　ニック・オファーマン　　アンソニー・ラモス
　セバスチャン・スタン　　セス・ローゲン

　■コピー

彼らがルールを変えた。

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