傷物語
こよみヴァンプ

　これは、西尾維新による小説を劇場アニメ化した「傷物語」三部作を再構成した総集編。
　本作の監督も、「傷物語」三部作の尾石達也が引き続き務めています。

　高校３年を目前とした春休み。阿良々木暦は、深夜の地下鉄構内で、血溜まりの中に斃れる美女と遭遇……彼女は自らを、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと名乗る。吸血鬼ハンターとの戦いで四肢を失い死に瀕していた彼女は、暦に助けを求める――が、それは命を血を差し出せ、と言うものとなる。しかし、暦は、それでもキスショットを見殺しにする事が出来ず、彼女に血を吸わせ――目が覚めた時、暦はキスショットの眷属となっていた。
　そして、暦は、キスショットの失われた四肢を取り戻す為、吸血鬼ハンターとの戦いに臨む事になり……

　「傷物語」三部作は、公開時に観賞していたものの、インパクトの強かった１作目を除き、頭からすっぽり抜け落ちてしまっていました。それで、今回は、まるで初めて観るように楽しむ事が出来ました。
　本作は総集編と言うことで、三部作・２００分以上の内容を、再編集して１４４分に切り詰めています。これにより、冗長に思えた内容は引き締まり、テーマも尖鋭化して、個人的には好印象となしました――映画は、編集で生まれ変わるものだ、と言う事を再認識した次第です。

　この傷物語シリーズ、主要登場人物以外の人物が一切登場しない、と言う、特徴的と言うか、いささか病的な描写をしています――つまり、モブがいない――あらためて観る本作は、それは、省略の美学と言うよりも、舞台劇、むしろ、朗読劇に近い個性を生み出しているように感じました。
　印象的な背景美術と合せ、この物語世界観は一見の価値あり、と思います。

　映画内容としては、吸血鬼ものとなるのですが、主人公が吸血鬼の眷属となり、バトルシーンでも敵方が人間となる、この種の映画としては異色と言えるものになります。
　そうした物語故、モンスターものにある、モンスターを退治してめでたしめでたし、とは行きません。
　本作の最後で、暦が決断するのは、誰も死なない、”共に生きる”と言うこと――誰かを犠牲として、幸せを得るのではなく、お互いが不幸を……”痛み”を共有しながら共存する、と言う終劇は、対立と分断が目立つ現在において、あらためて考えさせられるものだと思います。　
　

　（２０２４年　１月２５日　川崎チネチッタにて）

（作品データ）

　■監督

尾石達也

　■出演

阿良々木暦　・・・　神谷浩史

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード　・・・　坂本真綾

（その他のキャスト）
　堀江由衣　　櫻井孝宏　　入野自由　　江原正士　　大塚芳忠

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