おまえの罪を自白しろ

　これは、真保裕一の同題小説を映画化したポリティカルサスペンス。
　監督は「アイ・アム まきもと」の水田伸生。主演は、ＳｘｅｙＺｏｎｅの中島健人。共演に、堤真一、池田エライザ。
　
　政権与党で、副総理を務める宇田清治郎の孫娘が誘拐された。犯人からの要求は、身代金ではなく、“明日午後５時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ”という清治郎への脅迫だった――副総理として、総理に代わり“汚れ仕事”を引き受けて来た宇田清治郎にとって、それは決して明かすことが許されない、”罪”だった。
　宇田家の次男で、清治郎の秘書を務める晄司は、事態の収拾に当たるべく奔走するが……

　これは、孫を誘拐された国会議員を巡るサスペンスだが、よくある捜査側の視点ではなく、主人公を政治家秘書にした事で、内容としてはかなり政治寄りのポリティカル・サスペンスとなっています。
　その印象を端的に言えば「ミステリとサスペンスあれど、ドラマとリアリティなし」となるだろうか――素人には難しい政治劇を説明的セリフを語らせながら、この物語を、この尺でまとめ、テンポよく勢いで見せ切ったのはいいと思います。実際、自分も観てる最中（特に前半）は勢いに呑まれてしまいました。この辺り、本来、コメディを得意とする水田伸生監督らしい手腕であり、本作ではサスペンス演出も冴えていた、と思います。

　ただ、作りが粗い、と言うか設定と描写に疑問を覚える部分も多い映画です――秘書のひとりでしかない晄司が、あれだけ動き回れるのは不自然（違和感をなくすにはもっと歳を重ねていないと）ですし、真犯人がキャスティングで見当がつく、と言うポカもあって、自分は最後の犯人逮捕に至る展開で、ちょっと覚めてしまいました。
　また、映画の中で描かれる政治家の”罪”が現実に比べればかわいいものである事や、その一方で、犯人を、社会的弱者とする事、また、政治が行う情報操作や暴力を、目的の為に正当化するのを肯定するような、現在の映像作品としては疑問に思えるような描写にも疑問を覚えました。

　キャストはなかなか豪華ですが、特に絶妙だったのは宇田清治郎の長男を演じた中島歩で、もうそれだけで長男はボンクラだと判る（なので晄司が期待されているし、活躍もする）――まぁ、役がつく、と言うのは役者にとって気の毒な部分はあるのですけど。

　（２０２３年　１０月２２日　Ｔ−ＪＯＹ横浜にて）

（作品データ）

　■監督

水田伸生

　■出演

宇田晄司　・・・　中島健人

宇田清治郎　・・・　堤真一

宇田揚一朗　・・・　中島歩

（その他のキャスト）
　池田エライザ　　山崎育三郎　　美波　　浅利陽介　　三浦誠己　　矢柴俊博　　原収史　　中村歌昇　　佐藤恋和
　アキラ100%　　山崎一　　尾美としのり　　池田成志　　橋本じゅん　　春海四方　　小林勝也　　菅原大吉　　升毅
　平泉成　　尾野真千子　　金田明夫

　■コピー

本当の敵は、誘拐犯か、この国か

［戻る］