クライムズ・オブ・ザ・フューチャー

　これは、デヴィッド・クローネンバーグ監督による近未来ＳＦ。
　主演は、「危険なメソッド」に続き４度目のクローネンバーグ作品出演となるヴィゴ・モーテンセン。共演は、レア・セドゥに、クリスティン・スチューワート。

　人類が感染症を根絶……それに適応するよう進化した末に、痛みを感じることがなくなった未来。
　アーティストのソールは体内で新たな臓器が生み出される加速進化症候群であり、パートナーのカプリースと共に、臓器を摘出するショーを展開して人気を博している。
　一方、人類進化を監視する政府に反し、プラスティックを食するように人類を進化させようとするグループが暗躍していた。彼らからある遺体がソールの元に持ち込まれて……

　これはクローネンバーグ監督、８年ぶりの映画であると共に、近年、それまでの肉体的変容を描く内容から、精神的なものを主題とするようになっていたクローネンバーグ監督が、かつての方向性に回帰したもの、とも言われる映画です。
　ただ、本作は、かなり前に立ち上げられた企画だそうで、“プラスティックを消化出来るようになる進化”と言う内容も、マイクロプラスティックが環境中に拡散し、誰が知らず知らずのうちにプラスティックを食している現代なればこそ、この内容に一種のリアリティを感じさせるようになった……言い換えれば、現実が映画に追いついて来た、と言う事でもあり、本作は作られるべくして作られたもの、と言えるかも知れません。

　生物的な……と言うよりも、生体を組み合わせたような機器の数々は、「イクジステンズ」などにも登場した、かつてのクローネンバーグ監督ならではのアイテムですし、それらを現代的にＣＧで描かず、実際に実物を作って撮影する――しかも、動きが妙にぎこちない――のも、シュールリアリズムを映像化するクローネンバーグらしさとは言え、そこは、まるで２０世紀の特撮映画のように感じてしまいました。
　また、レア・セドゥは、本作でも期待通りに脱いで、全裸でのなまめかしいシーンを見せています。

　物語の方は、クローネンバーグ監督映画としては随分と判り易いものと思いました。
　その意味では、本作は決して２０世紀のクローネンバーグ作品に回帰するものではなく、むしろ、長年温めていた企画を、現代に合せてアップデートしたもの、と言えるのではないでしょうか。
　

　（２０２３年　８月１８日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督・脚本

デヴィッド・クローネンバーグ

　■出演

ソール　・・・　ヴィゴ・モーテンセン

カプリース　・・・　レア・セドゥ

（その他のキャスト）
　クリステン・スチュワート　　スコット・スピードマン　　ヴェルケット・ブンゲ　　ドン・マッケラー

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