これは、「ソラニン」の浅野いにおの同題まんがを、「ゾッキ」などで監督を務めた事でも知られる、俳優・竹中直人が監督して映画化したもの。
　主演は、「シン・ウルトラマン」の斎藤工、共演は、水谷豊と伊藤蘭の娘で、「生きてるだけで、愛」の趣里。

　人気漫画家の深澤薫が、己の人生を引き写し、８年をかけて連載してきた漫画がついに完結。薫には、次回作を促されても最早描くべきものがなく、真っ白な原稿を目の前にしてもペンが動かずにいた。
　SNSでは酷評され、売れる作品を求める担当編集者とは考え方が食い違い、アシスタントからは身に覚えのないパワハラを告発され、共に作品を作って来た漫画編集者の妻は、担当する人気漫画家にかかりきり。
　自堕落な日々を過ごすばかりの深澤は、虚無感を抱え、流されるままにひなびた夜の街にたどり着き、そこで、猫のような目をした風俗嬢・ちふゆと出会う……

　これは、クリエイターとして「やりたいこと・やるべきこと」と「売れること」の間で悩む男の物語……現在、出版ビジネスの中核とも言える漫画を題材に、ビジネスと青臭い自意識の間で揺れる心情を描くもので、これは、商業クリエイターならば多くの人が体験するであろう、普遍的なものでしょう。しかし、それだけに、これはもう少し若い俳優でないと、何もいい歳して、と言う感じが出てしまうのではないか、と思います。物語としても、そんな厄介とも我が儘ともとれる心情につきあうのは御免、と言う意見もあるでしょう……そんなテーマの映画の中で、主人公を翻弄する”猫のような目をした女”を演じた趣里が印象的です――川面にネオンが映えるひなびた色町（＝横浜・野毛＆黄金町）のデリヘルでバイトする大学生、と言う役なのですが、カジュアルな私服で太陽の下だと、高校生、時に中学生にも見えたりもします……それにしても、「生きてるだけで、愛。」も舞台は野毛と黄金町でしたが…趣里には夜の大岡川が似合うなぁ。

　しかし、ちふゆとの触れあいはただの寄り道でしかない、と言うのが、この映画の曲者たる所以でしょう。
　物語が最後に描く、「たかが漫画、されど漫画」と言う、見方によっては残酷とも取れる結末は、これもまたクリエイターに向けた刃……なるほど、浅野いにお＋竹中直人、やはり最後まで気の抜けない曲者でした。　
　

　（２０２３年　３月２６日　横浜ブルク１３にて）

（作品データ）

　■監督

竹中直人

　■出演

深澤薫　・・・　斎藤工

ちふゆ　・・・　趣里

町田のぞみ　・・・　MEGUMI

（その他のキャスト）
　山下リオ　　土佐和成　　吉沢悠　　菅原永二　　黒田大輔　　永積崇　　信江勇
　佐々木史帆　　しりあがり寿　　大橋裕之　　安井順平　　志磨遼平　　宮崎香蓮
　玉城ティナ　　安達祐実

　■コピー

もう、うんざりだよ。

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